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■ 猫になりたい【3】
3人になった女部屋。ベッドはふたつ。心はそれぞれで、多分間違い無く波乱の予感。
ビビが仲間として戻ってきた。我らがグランドラインでは、何が起きても受け入れるのが鉄則。 「宴だぁ〜〜!」 船長の号令一下、船では昼からずっと大騒ぎの歓迎会が続いていた。 端から端までみんな飲んだくれて酔っ払いながら、でも半分しらふな頭で冷静な判断を下している。端と端はそれぞれ端のまま。 「おいどうすんだよ、ナミ」 「なんで私にふるのよ」 「船長はこういうことじゃ当てになんねぇ。おまえ裏船長としてしっかりフォローしろよ」 「なに裏船長って。勝手に変な役職押し付けないで」 盛り上がりに水を差さないよう笑顔のままで、ウソップとふたり、何気ない会話を装って囁きあう。 ――正直言って、今はビビのそばに行きたい。また一緒に冒険できることが素直に嬉しいから。 でも、出会いがしらに衝動で抱きついたとき、背中で感じた視線の痛さと言ったら無かった。 私の肩越しにやり返していたビビの視線にもすぐに気付いた。気付かないわけがなかった。 ロビンとビビは敵同士で、和解のきっかけも無いまま別れてそれっきりだったのだ。 「せめて話でもさせてやれよ。どっちにしろおめぇ、夜は3人同じ部屋で寝なきゃならねぇんだぜ?」 「やめて!考えたくない!」 思わず頭を抱えてしゃがみこむ私の頭上で、ウソップは容赦なく続ける。 「だからよ、この場のノリで勢い任せに話とかさせてみれば、案外仲良くなるかもしれねぇじゃねぇか」 「……そうかしら」 同じく隣にしゃがみこんで名案だと得意げなウソップを疑わしげに見た。 「間違いねぇ」 「じゃああんたやりなさいよ」 「おまえの方がいいだろ。女同士で、どっちとも仲がいいんだからよ」 「……それが問題なのよ」 小さく呟いて立ち上がる。聞こえたのか聞こえなかったのか首を傾げるウソップに背を向けて歩き出した。一方の端、ビビの方へ。
「ビビ、楽しんでる?」 「ええ、もちろん!久しぶりにこんなに笑ったわ。相変わらずね、みんな」 程よくアルコールが回ってるのか、言葉通り機嫌よく、にこにこしてる。私はほっとしながら、ビビの隣に並んで柵に寄りかかった。 「あんたが帰ってきてくれて嬉しい。また一緒に航海できるのね」 「ええ、私も。もう二度と会えない覚悟だってしていたのに。」 「あんたはほんと考えすぎ。もっと楽観的に生きなさいよ。ルフィたちを見習って。」 「そうね。――ねぇナミさん、」 軽い調子のまま、騒いで転げまわるルフィやチョッパーを見ながらビビが声をひそめた。 「約束はまだ有効?」 どきりと心臓が鳴る。反射でまっすぐ、もう一方の端でゾロと酒を飲んでいるロビンを見た。ビビが自分を見てなくてよかった。ロビンもこっちを見ていなくてよかった。 「あのとき、“私がナミさんだけを想えない分、ナミさんは私だけを想ってよ”って言ったでしょ」 返事を待たず、ビビは驚くほど明るい口調で言った。まるで私の返事なんて知ってるとでも言いたげに。 「私の不安にも、恋なんかじゃないって言ってくれた、私だけを想うって、言ってくれた。あの言葉が、ずっと私を支えてくれたわ」 どんどん早足になる心音を隠しながら、盗み見るようにビビの顔を窺う。目を伏せて、静かに静かに、まばたきをしていた。 「あれがまだ有効なら、もう一度、やり直せるかしら?」 ゆっくり開いて上げた視線と、蔦のように絡みあう。もつれていくイメージ。 「うん」 いつのまにか駆け抜けるようにまでなった鼓動が、勝手に言葉を叩きつけてくる。 「……うん、やり直そうよ」 ミントでも放り込まれたみたいな頭はスーッと抜けるようで取っ掛かりがなく、思考はふわふわ漂っている。足の下に床がある気がしない。自分の声も変に遠くで聞こえる。ものすごいことを口走っていることだけは、理解できていた。 ただ目の前の笑顔に目が眩んで。 「うれしい。ありがとう、ナミさん」 目が、眩んで。 耳打ちする振りで頬にくれたキスが、懐かしくて嬉しくて、とんでもないことになったと思いながら柵の後ろ、2人の背中で隠して指を繋いだ。
積極的な姫と、ほだされまくりなナミさん。あっさりふたまたかけました。
2000年02月18日(金)
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