鳥の誓い【ロビナミ】

 子供だもの、仕方が無いと思った。
絶対なんて言葉を気安く遣う軽々しさで、そのくせ情熱的で痛々しいほど深刻ぶった顔をするからつい、信じてしまう。


「ごめん、今日はもぅ、寝よ」

言ったときには自分のベッドに潜り込んで、分かり易いNOのサインに、背中を向けて肩まで布団を引き上げた。

「なんか、疲れた」

今日の嵐にかこつけて、この関係を溜息混じりに否定する。
身勝手だなぁと、どこか冷めて思った。
誘ったのは自分でしょう?
その気になって、熱い想いを洗いざらいぶちまけ返したのも私だけど。

子供だから、ひとつの激しい感情にささやかで日常的な感情を見失い絶対だと言う。
一瞬の感情で残りのすべてを決め付けて永遠だと言う。
充分に大人で疑い深くもなっていたはずなのに、好きな子からの告白を真に受ける自分が、やっぱり間抜けだったにしても。


「そうね疲れたのなら、やめてもいいわ」


ふたつのベッドの端と端以上の距離から放たれたような遠い声にも、ナミは動じなかった。
どこかで期待した答えだったから。

大人と恋愛する利点。
ぐずぐずになる前に、さらりと滑らかに割り切ってくれる。
ましてロビンは年よりずっと大人びていて、とっくに一生を生き終わったひとみたいに凄絶に冷めてるから、こんなときは簡単で楽なひと。
ナミみたいに奔放な恋愛をする人間には理想と言ってもよかった。

「うん、ごめんね、なんか。あたしから言ったのにね。」

背中を向けたまま、声だけは申し訳なさそうに繕って悪びれも無く。

「でも、仲良しでいようね。これからもさ。」


安心しきった声があくびと絡み合って、判然としないまま夜に紛れる。
衣擦れの音を、ナミはロビンが頷いたものだと思った。




重くのしかかる闇は夜だったのか、それとももっと深いものか。

「……え、」

「やめるなら、勝手にどうぞ」

「……ロ、ビン?」

濃い闇が質量を増し、蠢いているのが視界の隅で見えた。
自分の名を呼ぶ声に、自分に決して向けられることのなかった怯えが含まれていて、どこかで満たされた。
好き合って、囁き合った夜より、繋がっている気がした。

首を手首を足首を、長い指が締め付ける。声はやっとで絞り出せた。

「……ど、……どうしたの……ロビン……」

「絶対と、言ったでしょ? 永遠とも、言ったわね。」

指と言う指が這い上がり、昨夜よりずっと親密な素振りでその肌を撫で上げる。
ナミが呻きとも喘ぎともつかない声をあげるのを、高まりを抑えることもせず見下ろした。
征服、陵辱、支配、よくよく考えればなんて自分には似合う言葉。
そうやって管理する方がずっと楽で確かなのに。
確証のない言葉に縋って、不安定なキスだけを頼りに抱き寄せて、なんて……なんて呑気な。

「あなたがあなたの誓いを違えても、私は私の誓いを果たす。心配しないで。ひとりでもやれるわ」


あなたはせいぜい自由に生きればいい。
私が作る世界の中で。

2000年01月27日(木)
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