“知ってる”【ルナミロビ】

 「うそつくなよ」
ぐったり横たわるルフィが、小さな声で言った。
多分聞こえたのは、その隣で濡れ髪をかきあげたナミちゃんと、耳をそばだてる癖のある自分だけ。
「うそじゃないわよ。今度こんなばかな真似したら絶対見捨ててやる。」
しれっと言った頬を水がしたたる。
ぽたぽたと落ちる雫がルフィの腕を打つ。近い距離で、秘め事のように囁き合っていた。
「うそさ。おれが飛び込めば、おまえも飛び込む。絶対だ。」
「うぬぼれや」
「好きだよ、泳いでるおまえ。きれいな魚みたいなんだ」
力の抜けきった体で、戦場のど真ん中で、夢見るように少年は瞳を閉じる。
――だからためらわず、飛び込んでいけるのだろうか。
すべてを奪うあの大きな悪魔の腕の中へでも、波を掴んで身をよじるその姿が自分を追ってくることを知っているから。
「おまえは何度でもおれを助けにくる。だからおれは、海なんか怖くないんだ。」
「少しは怖がってよ。手間が増えるから。」
「おまえが海に落ちたときだって助けに行くぞ。」
「だから、余計なお世話。おちおち溺れてもいられないわ」
そっけなく言うけど、ナミちゃんは嬉しそうだった。
私はあんな風にナミちゃんに、真っ直ぐに想いを伝えられない。真っ直ぐに笑ってあげられない。
でも飛び込めるだろう。
ゆらゆら誘う水模様を歪ませて、あの子が海に落ちたなら。

そしてその指に指を絡ませて、どこまでもどこまでも落ちていく。

あのね、ナミ。
私はルフィのようには言えないわ。
助けに行くとは言えない。
助けに来てとも言えない。
あなたのように軽やかに、海をかきわけて行けるわけもない。

ただそのときは、一緒に行くから。


どんな海の底も、あなたとなら落ちていける。
境界線のない深海で、ひとつに融け合う夢を見ながら。


2000年01月25日(火)
BACK NEXT HOME INDEX WEB CLAP MAIL