恋から墓へ【アーロン+ナミ】

 だって私、かわいいでしょう?
色んな手段で境遇探り、助けてくれようとしたやつだって居たわけよ。
思いあがったバカなんてこの時代の特権みたいなもの。
2000万ベリーの賞金首くらいなんとかなるなんて思っちゃうのね。
残念だったわね、アーロンは頭のいい男。
自分が動くのに邪魔になるようなことはしないのよ。
のらりくらり周到に、ゆっくり素早く手を回し、自分の理想を築いていくの。

そして勇敢な者たちは私の為に、2000万ベリーの傘の下に隠れた恐ろしい男に立ち向かっていく。
傷つき倒れてもう二度と動かない彼らの為に、私は墓穴を掘る。
爪に入った泥、落とすことだけ憂鬱だと思いながら。


「律儀だな、ナミ。また墓を建ててやったのか。あんな下らねぇ男の為に。」

放っておけば、おまえの大事な蜜柑畑の肥料にでもなるだろうなんて、酒に酔ってご機嫌の男は笑う。
その隣で爪を弄りながら、私はつまらない冗談に笑う。

「あんたにも掘ってやるわ。特大の墓穴。」

「そりゃ難儀するだろうよ」

シャハハハ、豪快に酒を煽る。
思い出したように私に勧めるから、脇に置いたグラスを取って受け取る。
たっぷり注がれたそれを煽ってみせれば、またアーロンは楽しそうに笑った。

「おまえは本当に魔女だな、ナミ」

そう言って目を細めた男は、どこか無邪気に見えてあどけなくも思える。

「おまえを助けようとしたやつはみんな死ぬ。
 なのにどうしてどいつもこいつもおまえを助けたくなるんだ。
 恋ってやつか、愚かな人間の呪い。おまえの定義を聞かせてくれよ。」

なんてかわいいことを聞くのよ、あんた。
それじゃあ私は、かわいくない答えでも返しましょうか。

「恋は、共に生きることはできないひとに、それでもどうしようもなく
 そばにいて欲しいと願うことよ。
 そういう意味ではそうね、あいつらは間違いなく、私に恋をしたんでしょう」

「くだらねぇ愛、呪いのような恋。人間はいつか間違いなく滅びるぜ。」

ええ。

ええそうよ。


だからあんたにも、かけてやるの、この呪い。


「おまえは生き残れよ、ナミ。
 これからも、おまえの為に死んだ男や女の為に墓を掘り続けてりゃいい。
 魔女の笑顔を浮かべて、誰も愛さねぇと誓え」

「ええ、きっと私は、誰も愛さず、愛してくれたひとの墓を、掘るでしょうね」

きかない子供に言い聞かせてる気分で、ひとつひとつ、丁寧に言葉にする。
指先にちらりと一瞥を投げかけ、少しだけ憂鬱。なかなか落ちない爪の中の泥。
でも大丈夫、笑えるよ。あんたの好きな魔女の笑顔で。

「私はあんたの測量士よ」

「そうさおまえは、俺の大事な測量士。
 ――世界中の海を見せてやる。生きるに事欠くことはさせねぇ。」

まるでプロポーズ。

「俺のそばに居ろよ、ナミ」

「あんたが死ぬその瞬間まで、ずっとそばに居るわ」




恋とは

共に生きることはできないひとに
それでもどうしようもなく
そばにいて欲しいと願うこと




ねぇアーロン、あんたは間違いなく


私に恋をしていたでしょう?


「だってあんたの墓を掘ってやらなきゃ」


シャハハハ、ご機嫌な笑い声。
笑ってればいいわ。

私に恋をしたやつは、みんな死ぬのよ。







なんかこの2人のどうしようもなく病んだ関係が実は大好きです。
ハチとナミさんの絡みを見てたら幹部時代のナミさんを思わずには居られませんでした。
他の誰より呼びなれた名前のように、当たり前みたいに「ハチ」って呼んでたことに、なんかすごい不必要な深読みをしてしまいます。
人格を決定付ける大事な時期に身を置いた場所はどんなだったのか。
下等と見下し虫のように殺せる人間の、それも年端もいかない少女を、契約で縛ってまでそばに置いたアーロン。
いっそ死んでしまえればどんなに楽かしれない苦しみと哀しみの中を、アーロンへの憎しみで生き抜いたナミ。(もちろん村の人たちや、ノジコ、ゲンさん、自分を守って死んだベルメールさんへのひたむきな愛でもあったのですが)
書き手心をくすぐるじゃありませんか!そんな感じで!!

2000年01月19日(水)
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