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■ ハッピーファミリーデイ【麦わら一味】
甲板のはしゃぎ声は、いつのまにか潮騒のように耳慣れて、なくてはならないものになっていた。
「今日は静かね、みんなお昼寝でもしてるのかしら」
フランキーはポットにチップを放りながら、手元のカードに視線を落としたままのロビンの顔を疑わしげに見た。
「なに言ってんのよ、おめぇ。」
「え?」
「船首の方」
カードをめくり舌打ちなんてしながら、何気ない顔つきでフランキーが言う。 言われてちらりと視線を送れば、芝生甲板を見下ろす船首で、こちらを向いて寝そべってるのが2人。
「年少組の残り2人は、さっき年中組をおっかけてどっか行ったぜ」
「そうなの?」
「これが政府を20年欺き続けた女とはねぇ、すっかり平和ボケしちゃってよぉ」
視線を戻したロビンの素朴な眼差しに、フランキーは口の端で笑う。 気分を害した様子もなく、ロビンも小さく笑った。
「本当ね、すっかり甘えが身についちゃって。いけないわ。 ――でも、勝負は私の勝ち。」
「手札を見るまでそういうことは言わねぇ方がいいぜ」
「ここ、シワが寄ってるわ」
フランキーの眉間に人差し指を押しやって、ふふっと笑う。 ポーカーフェイスは苦手みたいね、とロビンが言えば、これもひとつのポーカーフェイス、なんて答えが帰ってくる。
「証拠に、レイズだ」
「ハッタリでしょう?」
「さぁて、どうかね?」
にやにや笑いながら、2人で駆け引きを楽しむ。 ゆっくり穏やかな騙しあい。心地良い時間が過ぎていく。
「年少組は、よくあんないつも新しい遊びを思いつくよな」
「あなたの中ではナミちゃんも年少組に入るのね」
カードを一枚投げて、一枚引く。 単純な手順を繰り返しながら、ロビンはまた、船首から見下ろすナミとウソップをひっそり見遣る。 2人は時折こちらに視線を送っているようだけれど、大体は手元に意識を集中させていた。 どこから引っ張りだしてきたのか、いっぱしの画家みたいな顔つきで画材を操っている。 指と言う指に絵の具の跡。
「おめぇにはあれが大人に見えんのか?」
「そうねぇ、クルーに指示を出してるときなんかは。」
「それ以外のときは見えねぇってことだな。」
「ここで頷いたらナミちゃんに怒られちゃう」
「そりゃ、イエスってことじゃねぇの」
言いながら手札を開く。ロビンのそれと見比べて、わざとらしく溜息。
「おかしーなぁ」
「それで勝てるつもりって言うのがおかしいわ」
カードを混ぜて切って、もう一勝負。 賭けてるチップは、実は板チョコの切れ端。 チョコとチップ、掛けてるなんて言ったらナミは呆れるだろうか。 ロビンはそんな他愛ないことを考えながらカードをめくる。
「かわいい妹のことでも考えてんのか?」
「あら、どうして分かったの?」
「顔がにやけてる」
「失礼ね。あなたこそ、かわいい弟が気になるんでしょう?」
言われて今度はフランキーが、珍しく静まり返った船の上、なにを描いてるやら夢中で筆を走らせる2人を仰ぎ見る。 ふとカンバスから視線をあげてこちらを見たウソップと目が合うけれど、向こうにはそんな意識はないのか、なんの反応もなく視線はカンバスへと戻っていく。 あそこにはなにが描かれているんだろう、気になるのは、仰せの通り、一回りも年下の弟妹(ていまい)がかわいいからで。
『できた!!』
ロビンとフランキー、どちらともなく開きかけた口が揃って閉じられた。 それまで静まり返っていた船の中に、ぱっとアザレアが咲いたように色が灯る。
「わ、さすがウソップ!じょうずねー!」
「ナミも中々じゃねぇか!こりゃ金取れるぜ!」
2人はお互いのカンバスを覗きあい褒めあい照れあいして、楽しそうに肩を叩き合った。 下からそんな光景を眩しげに眺めていたロビンとフランキーに、自然と笑顔が浮かぶ。
「やっとできたのか。アウ、見せてみろよ」
かかる声に驚いたように、ナミとウソップはフランキーを見た。 それからお互いの顔を見て、こすった絵の具のついた頬でにやり。 カンバスを大事に抱えて、競い合うように駆け下りてくる。
「私が先!」
「おれが先だ!」
「じゃあ同時。せーので行くわよ」
「おーし、いくぞ、せーの」
あまりの勢いに面食らう2人の前に、掲げられた二枚の絵。
独創的な配色が、そのまま被写体の個性を現しているウソップの絵。 しっかりしたラインと淡い水彩がその本質を映し出しているナミの絵。
「おれ?」
「私?」
描かれてたのが自分たちの絵だと知って、目を丸くするフランキーとロビン。 ナミとウソップはにこにこと。
「ハッピーマザーズデイ」
「アンド、ハッピーファザーズデイ」
なんて説明もろくにせずに満足顔。
「あ、こちらも完成したんですね」
ヨホホと笑い声を含ませて、ブルックがのんびり甲板を歩いてきた。
「向こうも出来上がってましたよ。非常にかわいらしい絵でしたね。 ゾロお父さんと……サンジお母さヨホホホホホ!!」
“お母さん”なんて、きっと無邪気な顔で言われて怒るに怒れず複雑な顔をしたに違いないサンジの顔を思い出したのか、ブルックが耐え切れずに笑い出す。
「ホホ、しつ、失礼!」
笑いを治めて、改めてナミとウソップの絵を見る。
「実にお見事!よかったですね、フランキーさん、ロビンさん」
「悪ぃな、ブルック。今度はおめぇの絵もちゃんと描くからよ」
『敬老の日に』
「ヨホホホホ!楽しみにしています」
「おいおい、なんだっつーんだ一体。おめぇらの話は順番がなってねぇ!」
話に置いてかれてたフランキーが慌てて会話を遮る。 隣でロビンが、同じ疑問を問いたげな顔をしていた。
「あ、私もさっき聞いたばかりなんですけどね、つまり――母の日と父の日なんですよ。」
「正確には今日じゃないし、同じ日でもないんだけどね。イースト・ブルーでは大体今頃なの」
「そのことを今朝思い出して、せっかく“イベント”なんだしなんかやろうってルフィが言いだしてよ」
「で、この船の“お父さん”と“お母さん”に何かプレゼントをするってことになったってわけ」
「それで、私とフランキー?」
「おいおい、いくらなんでもこんなでけぇ子供がいる歳じゃねぇぜ」
苦笑いで目配せするフランキーにロビンもそうねぇと笑う。
「でももっとかわいそうなのはゾロとサンジ君だわ」
自分たちで考えておいて、悪びれなくナミが言う。
「サンジはいつも飯作ってくれるし、ゾロはいつも寝てばっかだけどいざとなれば頼りになるからな」
「この船で当てはめるなら、どっちも立派なお父さんとお母さんよね」
「要は理由付けなんだな、単純に」
「そう言ったらおしまいじゃない。まあ、お遊びだから。 大人なら付き合ってよ。はい、プレゼント。いつもありがとう」
「ありがとな」
そう言って、ナミはロビンに、ウソップはフランキーに自分の自信作を手渡した。 どこか照れた笑顔を誤魔化すように、また2人は目配せし合って、子供の遊びに付き合ってるだけと言う風を繕いながらそれを受け取る。
「ありがとう」
「さんきゅ」
はしゃぐ声が近づいてくる。 船はいつの間にかまたいつもの騒々しさを取り戻していて、潮騒のように、耳に響き渡る。 まどろむような心地良さ、両手いっぱいに抱えて。
おまけ。
「ばかやろ〜ぅ、泣いてなんかねーよ!」
「なによお父さんってば、意地っ張りなんだから」
「お父さんって言うな!」
「親父、船の作り方教えてくれっ」
「バカ息子がっ、十年早ぇ!」
「え、そこはノッてくるんだ。ねぇお母さん、お父さんのどこがよかったの?」
「そうねぇ、強いて言えば……若気の至りかしら」
「おめぇもノるのかよっ?!しかも微妙に設定が嫌だ!」
ロビナミでフラロビでウソナミでフラウソ。 全部大好き!! 麦わらの一味のファミリーな感じがほんと好き。幸せ。 特にルナミチョパウソの4人がはしゃいでるのとか見るともうきゅんとします。それでそれを見守ってる大人組とかにもきゅんきゅんします。 スリラーバーク編なんかウソナミチョパが仲良くきゃーきゃー言ってて、かわいくてかわいくて仕方なかったです(笑)
2000年01月20日(木)
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