読書記録

2019年07月16日(火) 方丈の孤月 / 梓澤 要


 鴨長明伝

幾多の乱世で見たこの世の無常。
ちっぽけな終の棲み家で、月を相手に今語らん。
下鴨神社の神職の家に生を受け、歌と琵琶に打ち込みながらも、父が早世したためについぞ出世叶わず、五十歳で出家。平家の興亡を目の当たりにし、大火事、大飢饉、大地震などの厄災を生き延びた鴨長明が、人里離れた山奥に庵を構え、ひとり『方丈記』を記すまでの正に流転の生涯。


人が一生を過ごす間に思うことはすべて、悪業でないことなどないのだ。形を変え墨染の衣に身を包んで出家者になり、世間の塵に穢されない境遇に入った人でさえ、その心は野性の鹿のようなもので、繋いで制御することはむずかしく、煩悩は家で飼っている犬のようなもので、常にかたわらにいる。


ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。

朝に死に、夕に生るるならひ、ただ水の泡にぞ似たりける。知らず、生れ死ぬる人、何方より来たりて、何方へか去る。また知らず、仮の宿り、誰が為にか心を悩まし、何に寄りてか目を喜ばしむる。







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