銀河鉄道を待ちながら
鬱と付き合いながらの日々を徒然に

2006年08月04日(金) 蝉の抜け殻二つ

看護師さんたちのデスクが置いてあるナースステーションと僕ら入院患者たちが活動する場所は、鍵のかかった扉と上げ下げできる格子付のカウンターとではっきりと区分けされている。

入院患者は看護師に用があるときは、カウンターの格子が上がっているときはカウンターあるいは小窓から、格子が下がっているときは小窓のみから、直接呼び掛けるか小窓の近くに置いてある呼び出しボタンを押してブザーを鳴らすか、どちらかをしなければならない。

午後、僕が外出を申請に行こうと思ってナースステーションを訪れたとき、カウンターの格子は下がっていた。

そこで僕は小窓に行って、呼び出しボタンを押そうとした。
すると、なぜだかわからないが、呼び出しボタンの近くに蝉の抜け殻が二つ並べて置いてあった。

僕は一瞬驚いた後、じっくりとその抜け殻を見た。
蝉の抜け殻を見るのは十二、三年ぶりだろう。僕は蝉の抜け殻を喜んで取っていた少年時代を思い出した。

――あの頃は夏が嫌いじゃなかったな。
夏休みには毎日のようにプールに行き、元来色白な肌を浅黒くしていったものだった。

蝉だけでなく蝶やカマキリやトカゲをたくさん捕まえて遊んだ。どうやってその日を遊ぼうかなんて考える必要もなかった。夏は楽しい季節だった。

そんな夏を嫌うようになったのはいつからなのだろう?
軟弱な僕は、暑くてだるいその季節をいつの間にか憎むようになっていた。

でもそれも今年で終わりだ。
今の僕は夏を楽しめるようになった。

ぎらぎらと照る太陽の下を歩いたり、自転車に乗っていることが、僕の生命を元気付けてくれる。

僕は今日も外出の許可を取る。
そして、今日も炎天下の中を、胸を張って歩いていく。


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