コミュニケーション。
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カメラマンの手は、 いつものように私の手をとった。 水仕事を終えた後だから冷たくて、 それをすっぽりと包んで、温めようとしてくれた。
私は、 「22才の別れ」 を思い出していた。
カメラマンの顔が見れなくて、 カメラマンの話にも、うまい相槌を打てなかった。 私の反応がおかしいことに、 カメラマンも気づいていた。
「お別れして…もらえませんか…?」
やっと見上げた、カメラマンの顔は。 暗い車の後部座席じゃ、見えなくて。 私は、どこを見たらいいのか、少し途惑った。
カメラマンの反応は、大体予想がついていた。 この人は多分、何も聞かず、何も言わない。 引きとめようともしないだろう。
でも、本当にそうなのを見たら、 涙が出そうだった。
「元気でね」
消え入りそうな、高い声で、 カメラマンが言った。
期待を持たせるような言葉は言わないように、と思っていたけど、 つい、
「そんなこと、言わないでください」
と俯いてしまった。
おやすみなさい、と笑顔で手を振った。 カメラマンの顔は、 街灯の逆光で、ついに見えなかった。
****************
帰ってきて、 とりあえず、心配していた寺島に報告。
…そこからどうしてそうなったのか、よくわからんのだけど、 喧嘩になった。 考え方の方向の違い、だ。
「陽ちゃんはね、縛られたくない、と言いながら、 自分で自分を縛ってる気がするのよ。
ユミのために変わる、じゃいけない、 俺のために変わるんだ、っていうけど、
陽ちゃんの心は、 “ユミちゃんのために変わりたい”って思ってるんでしょ?
(ここでの返事は「うん」だった)
それに従って何が悪いわけ?
誰が、ユミちゃんのために変わるのはいけない、って言ってるわけ?
それで結果的にうまく変わっていければ、問題ないんじゃない? 変わっていけずにユミちゃんと縁が切れたら、 後悔するんじゃない?
後悔しないのが一番なんだと思うのよねー」
私は、いつも寺島の話ばかり聞いているので、 多分、寺島は、 自分にたてつく私というのは嫌いなのだろう。 自分と違う意見をもってる私、というのも嫌いなのだ。
そうじゃなければ、 普通に言い返してくればいいだけの話なのに、 反論はせずに、私を攻撃してくる。
「そんな風に喋るマリちゃんは嫌い。
いつもの、包んでくれるマリちゃんじゃない。
こんなマリちゃんも、マリちゃんだとは思うんだけど…」
そうよ。 あなたを包んでいられるのは私だけど、 あなたにでさえ、主張を曲げられないのも私。
私に散々甘えておきながら、 結局好きなのはユミちゃん、と言って憚らないあなたに、 悪意を持って持論を並べ立てたことも、否定しないわ。
そう、寺島とカメラマン、何が違うかと言えば、 カメラマンは、私に甘えて喋りたくっていたわけじゃないこと。 私を楽しませようとして、 いろんな話をしてくれていたのだ。 仕事の話は聞いたけれど、愚痴は聞いたことがなかった。
えらそうに断言口調で喋ったことが気に食わないなら謝るけど、 その前に、あなたの私をバカにした態度も、 いいかげんにしてくださらない?
昼間遊びに来て、私に何度となくセクハラしてきたのは誰? カメラマンとのデートに反対して、 カメラマンの悪口を言ってたのは誰?
で、夜には、 「ユミが大好きなんだと思うよ」 って、どういうことよ?
本当に欲しいものがわかってないから、 そんなどっちつかずの態度がとれるんじゃない。 ウィンブルドンで勝ちたいのなら、 わき目もふらずに走ってゆけるはず。 ユミちゃんが欲しいなら、 私がいなくても大丈夫なはず。
寺島の携帯の電池が切れたとき、 もう喋りたくなくて、
どうやらキレたらしいよ。 でもね、私もキレてる。
久しぶりの拒絶の言葉に、 少し涙が出て、正直悲しかったけれど、 そんな自分は悔しかったし、 謝って、許しを乞う気にもなれなかった。
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さーて、残った愛する男の人は、 ダレカさんと峰さんですか。 峰さんは片想いなので抜かすとすれば、 ダレカさんしかいないね。
これは、あたしがダレカさんを選んだ、ってことなんですかね?(笑)
でもねー、そんな気もする。 今のあたしに「合う」のは、この人くらいかなぁ、と。 峰さんはまだまだ未知数なのですがね。
いいかげん、名前をつけてあげましょうか(笑) 「ダレカさん」 改め、 「月野さん」 で、よろしくどうぞ。
立場は…「愛人」?(謎)
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