コミュニケーション。
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しばらく、ナーバスだった。 カメラマンの腕を振り切ったことも、 寺島に拒絶されたことも、 久々にあたしの胸に重くのしかかり、 涙を拭くこともさせないまま、 あたしをソファに縛りつけた。
カメラマンがあたしに迫ってきたことも、 喧嘩の火種だった。
別れを告げた後、 怖々とあたしに手を伸ばし、つかまえ、 抱きしめたカメラマンは、 続いて唇を塞ぎ、胸を触ってきた。
馬乗りになるように体を押しつけ、 今までにない力で、あたしの手を握った。
こんなことを、やり通せる人じゃないと知っていた。
「杉本さんもっ…そういうことが目当てだったんですか?!」
唇から逃げて、わざと挑発した。 杉本さんは、少し目を見開いて、
「そうじゃない」
とすぐに言った。 我に帰った、という表現を目の当たりにしたようだった。
あたしを、引き留めたかったんだろう。 でも何も言うことが出来なくて。 だってそうやって生きてきた人だから。 抱きしめることでしか、キスをすることでしか、 引き留めたい感情を示す術を、知らなかったのだと思う。
やり通す事だって出来たのだ。 あたしより随分背の高い彼なら。 車の中。 あたしの手を封じてしまえば、外には出られない。
我に帰ってくれたこと、 その後、「元気でね」と言ってくれたこと。 あたしは、あたしへの愛だと受け取った。 あたしを好いていたのに、 あたしも自分のことを好きだと思っていたのに、 何も聞かずにあたしを自由にしてくれて、 嬉しかったし、ありがたかった。
だから、寺島にちょっと話したのだ。 キスしたなんて言ったらうるさいから、 抱きしめられた、胸をちょっと触られた、と言ったら、
お前は無用心だ、 車の中なんか入るな、 もしものことがあったらどうするんだ、 付き合ってもないのにそんなことする男なんか、 との説教オンパレード。
…最後の一文、ひっかかりますよねー。
お ま え も じ ゃ
「あなただって付き合ってもないのにヤってたじゃないっ?!
杉本さんを悪く言う資格、ないわよっ!!!」
多分、この反発から、 彼の苛々はたまっていたのだ。
しかしどうして、 引き留めたい気持ちを察して、許してあげられないかねぇ。 杉本さんとのデートの前、 私を引き留めたくてあの手この手やってたし、 ユミちゃんにフラれたときだって、 2日後にデートセッティングして、 ブーツ履いておめかしして、説得に行ったじゃないか。
そこまでカッコ悪くなれる人が、 何で杉本さんの気持ち、わからないんだろう。
どうにもぐちゃぐちゃで、 こんなときは漫画だー!!と、 早朝4時にレンタルショップに向かった。 どっさり借りて、 コンビニで買い物もした。
返ってきて、しばらく読み漁ったら、 大分すっきりしてた。
これで寺島と縁が切れたら、 結局寺島はあたしを受け入れられなかった、ってことなんだから、 あたしが気に病むことは何もないと思った。
次がある!と不思議と思うことが出来た。 峰さんからメールは来ないけれど、 まだ完全に希望は捨てたわけじゃないし、 捨てなきゃいけなくなっても、 出会いならいくらでもあるわ、と思えた。
やっと眠気が襲ってきた、朝の9時ごろ。 寺島からのメール着信音がした。
…何のメールだ…? こういう場合、 借りてたCDを返しに行く、とかいう事務的なメールのはずだ。 そうしてまたあたしは落ち込む。 事務的じゃなくても、 「今日行くね」なんていういつもどおりだったら、 それはそれで落ち込むのだ。 昨日は何だったんだよ、と。
とにかく、 いい報せのメールじゃないことはわかっていた。
…
メールを開いたときの衝撃を、わかっていただけるでしょうか。 彼と付き合ったり別れたりの4年間、 そして今日まで、 彼が一晩にして、 自分の非を受け入れ、怒りを鎮めるなんてことは、 絶対にありませんでした。
まず何よりも、自分の非を受け入れませんでした。 怒りなんてものは一時の感情ですので、それが過ぎ去れば、 何事もなかったかのようにあたしに接してくる、 それが寺島君という人でした。
あまりの衝撃に、 何も考えることなく、あたしもごめんと送っていました。 どうしたんだろう…頭でも打ったかな…(失礼)と考えていたら、 ピンポン、とドアチャイムが鳴って。 出てみたら、寺島で。
最近慢性的に寝不足だから、苛々してるんだよね、 などとフォローを口にしながら、 それを解消する!と言って、ソファで寝てしまいました。 結局、学校はサボリ。
どう見ても、どう考えても、 君はあたしを選んでいるんだけどなぁ。 自分の非を受け入れて、あたしに許しを求めたんだけどなぁ。 ソファに寝てても、 いろいろあたしに話しかけてきて、 あたしにしか出来ない相槌を、求めてきてたんだけどなぁ。
それでも、ペアリングは外さない。 後悔しても、知らないよ?
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