過去ログ一覧前回次回


2007年03月27日(火) 結果は目に見えている

金曜の朝から悪寒がし始め、まずいなと思っていた。日曜は夫の実家で法事があるのだ。年配の人や小さな子どもがたくさん集まる場でゴホゴホやって風邪菌をばらまくわけにはいかない。
早々に布団に入ったのだが、朝目が覚めたらさらにひどくなっていた。頭が割れるように痛み、熱も吐き気もある。
しかし、あちらには前日に行くと言ってある。乗り継ぎのたびに休憩を入れながらなんとかたどり着いた。

咳と鼻声のために風邪であることは隠しようがなかったが、具合が悪いというのは義父母には悟られたくなかった。何が免除されるわけでなし、そんなことを知らせてもしかたがない。
夕食の席ではいつも通りふるまい、「おやすみなさい」を言って部屋に戻ったときにはふらふら。私の体があんまり熱いのでびっくりした夫が氷枕を持ってきてくれたが、体中がきしむように痛んで眠れない。
夫は「明日は十一時からだからそれまで寝てていいよ」と言ったが、ふだん泊まりに来たときだってそうはいかないのに、来客の準備でばたばたする朝に嫁がそんなことができるわけがない。忙しく立ち回る階下の足音を聞きながら休んでいられるほど私は図太くない。
案の定、義母は五時過ぎに起きだして台所のことを始めた気配。やっとこさ起き上がって下りていったときにはすでに朝食ができていた。このことだけで気を遣ってしまう気持ちは男にはわからないだろう。

法要や会食のあいだ、激しく咳き込むことがなかったのは幸いだった。熱のわりにシャンとしていられたのは気が張っていたからだと思う。
しかし客が帰った後、崎陽軒のシュウマイが食べたいと夫に言われたときは「自分で買ってきなよ」が喉元まで出た。朝も起きてきたと思ったら、「具合はどう?」もなく「コンビニで日経新聞買ってきて」と言われ、頭にきていたのだ。夫の実家は女がこまごまと働く家なので、私が断れば義母が「いいわよ、ゴミ出しのついでに私が行くから」と言いだしかねない。なので黙って行ってきたが、昨夜私があれだけ苦しそうにしていたのをもう忘れたのか?と思った。

買い物から戻る途中、夫の実家の隣、というか敷地内にあった小さな家がなくなっているのに気がついた。老夫婦に貸していると聞いていたが、そこが更地になっていたので夫に訊いたところ、去年どちらも亡くなって住む人がいなくなったため取り壊したのだという。
遊ばせとくのはもったいないねと言ったら、「東京に転勤になったらここにガレージを建てようかと思って」と夫。彼は学生時代、チューニングショップでアルバイトをしていたほど車やバイクをいじるのが好き。いまでも週末は近所のバイク屋に入り浸っている人だから、ふうん、いいんじゃないと返した。そうしたら。
「でね、二階を住居にしようかと」
「住居?そんなのつくってどうするの」
「僕たちが住むの」

こんな狭い敷地に建つ家の、しかも二階だけでなんてどうやって暮らすというの。風呂も台所も実家のがあるんだからいらないだろうとでも?同居に不安があるということは結婚前から伝えているが、それでまさか「別居」だなんて思っているわけじゃないでしょうね。
帰省するたび、夫は実家が大好きなのだなあとつくづく思う。義父や義弟と仕事やゴルフの話をしているとき本当に楽しそうだし、義母は世話好きで至れり尽くせり、妻のように「ビールは二本まで」なんてうるさいことも言わない。これ以上居心地のいい家は世界中探してもないだろう。
……でもね。それはあなたにとっては、なの。
そこでは私が言いたいことの半分も言えないことをわかっているからこそ、あなたは今年の年末年始はみんなでスキーに行こうなんていう話を実家で持ち出すのでしょう?スキーが大好きな義父母は大喜びだ。
「今年の休みは九日間あるからな。そうと決まったら早く飛行機とホテルを押さえとけ」
「シャモニーにしようか、それともウィスラーのほうがいいかな」
妻にも実家があることなんて誰もなんとも思っちゃいない。
新年の挨拶なら次の休みに行けばいい、という話ではない。一事が万事、だから。
結婚式の段取りを決める頃から、大事な場面ではいつもあちらを“立てて”きた。そしてこれからも妻の実家はいろいろなことを少しずつ、夫の実家に譲っていくのだ。譲られたほうはそんなことにはまるで気づいていないというのに……私はそれが悔しい。

しかしなにより腹立たしいのは、夫がたとえば「行き先を北海道にして、日程を短くする」といった折衷案を用意して気が乗らぬ妻を説得する……という労を惜しんで、強引に自分にとって最良の結果を得ようとするところ。周りから固めていくようなやり方でなく「まず妻の同意を得る」というところから物事をスタートさせてくれれば、私ももっと気持ちよく行くことができるのに。家のことだって同じである。


実家に住めれば週末に義父や義弟とゴルフに行くのに便利だし、車いじりも好きなだけできるだろう。しかし所帯を持ってもなお、そこまで自分の思い通りの生活を追求するのか、妻の気持ちは見て見ぬふりをして。
あなたの妹が二年足らずで同居を解消したのは、たまたま姑との相性が悪かったからだと思っているの?そうじゃない、それは本当にむずかしいことなのだよ。私はあなたの両親が好きだからずうっと良好な関係でいたい、そのために適切な距離が必要だと思っているのだということを理解してほしい。

そりゃあね、嫁は“お客さん”じゃないよ。だけどそこはやっぱり気を遣わないではいられない場所だし、たくさんの親戚に会って緊張もしたんだから、「おつかれさま」の一言くらいかけてくれたっていいんじゃないの。
その程度の気もつかない人とその実家に住んだら自分がどうなるかなんて、試さなくてもわかっちゃうよ。