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2006年04月03日(月) 浮気は束縛で防げるか

「うへえ、気持ち悪う〜〜!」

新聞を読みながら思わず声をあげた。人生相談欄にそう叫びたくなるような男が出てきたのだ。
相談者は結婚十年目の三十二歳の主婦。子どもが小学生になり、時間にゆとりができたのでアルバイトをしたいと夫に話したところ、「仕事をしたらおまえは浮気する。面接に行ったら許さない」と頭ごなしに言われ、あきらめた。結婚当初から「男がいる所には行くな」「外に目を向けず俺だけを見てくれ」「俺を趣味にしろ」と言われてきたが、そんなふうに行動を制限されることに納得できない。どうしたら夫の考えを変えることができるだろうか、という内容だ。

回答者は「『妻は夫の従属者ではない』と訴え、ケンカをしてでも願いを主張し続けましょう。相手が根負けする可能性もあります」と答えている。が、まあ無理だろうね……とつぶやく私。
浮気をしないよう妻を家に閉じ込めておこうなどと考える男にはどんな理屈も通用すまい。「私のことが信じられないの?」と詰め寄っても無駄。彼がそれを認めないのは妻を信用できるできないという問題ではなく、「自分に自信がないから」なのだから。
もし私が「外に目を向けず俺だけを見てくれ」なんてことを言われたら、目の前が真っ暗になるだろう。自分の夫がこんな情けないセリフを口にできる、プライドのない人だったとは……と。
相談者には気の毒だけれど、いかに説得を試みてもこういう男は変わらない、と私は思う。


ところで、「束縛」は浮気防止に有効なのだろうか。
先日『躍る!さんま御殿!!』を見ていたら、出川哲郎さんが他の出演者に彼の“妻の目をあざむく方法”を暴露されていた。
出川さんは奥さんから携帯を厳しくチェックされるため、女性からの着信はすぐさま削除する。が、そうすると着信は十件とあるのに履歴は九件しか表示されないという事態が起きてしまう。そこで出川さんは数合わせのために周囲にいる人に「ちょっと俺の携帯に電話かけて」と頼むのだそうだ。
これは、どれだけ拘束されようともその気になればどうやってでもかいくぐるといういい例ではないだろうか。締めつけがきつくなればなるほど敵は知恵を働かせ、やり方が巧妙になるだけである。

私はときどき男性の友人とごはんを食べに行く。そのとき好奇心で「奥さんにどう言って出てきたの?」と訊くことがあるが、正直に言ってきたよと返ってきたことは一度もない。答えは決まって、同性の友人や知り合いの名前を借りて、というものだ。
彼らが奥さんにがんじがらめにされているということはたぶんないだろうから、その嘘は余計な心配をかけまいという思いやりから出たものである。しかし、それも見方を変えれば「抜け道はいくらでも作ることができる」の証明になる。

まあそれでも、妻なり夫なりが鵜の目鷹の目で相手を探すようなタイプである場合は「監視」もある程度浮気の抑止力になるだろう。身動きしづらくすることでその機会を幾分カットすることはできそうだ。
しかしながら、出会いは日常生活の至るところにある。私の友人は電車に乗っていたら、網棚からカバンが降ってきた。隣りに座っていたサラリーマンのもので、「すみません」「いえいえ」とやっているうちにちょっといい雰囲気になり、途中下車してお茶を飲みに行ったことがあるそうだ。
子どもを一人にしないよう大人がどれだけ心を砕いても、悲しい事件はなくならない。それと同じで、妻や夫の行動を完全に把握したりコントロールしたりすることは不可能。どれだけ目を光らせたところで、数限りなく落ちている恋の種を残らず踏み潰すことなどできないのである。

それならば気をもむだけ損。そのときはそのとき、だ。
……と私は開き直っている。でなければ出張だらけで週末にしか帰ってこない人の奥さんなんて、とてもやっていられない。

* * * * *

ちなみに、うちの夫の辞書には「束縛」とか「やきもち」とかいう言葉はない。
したいと思ったことを「男と一緒だから」という理由で反対されたことは一度もない。何度か男性の参加者もいる泊まりがけのオフ会に出たことがあるが、いつも快く送り出してくれた。だから、男性と約束があるときもきちんと申告して出かける。

もっとも、旅行に行くと言っても誰とどこに泊まり、帰宅はいつといったことをまるで訊かれないことについては「これでいいのかしら……」と思うところはあるけれど。
私はときどき自分が広大な牧場に放たれた牛になったような気分になる。主はちっとも様子を見に来ないが、実は柵に大きな穴が空いていて、夜な夜な抜け出して遊び回っていたらどうするのかしらん。