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2006年02月22日(水) 読んで泣き、書いて泣き……

初めましての方からいただいたメールの冒頭に、「いつも納得したり、共感したり、泣いてしまったりしながら読んでいます」という一文を見つけた。
自分の書いたものを読み、うんうんと頷いてもらえるのはうれしいし心強い。が、涙してくれた人がいると知ると、私はさらにじいんとくる。「泣きながら読みました」と言われることは年に何度かあるが、そういう日の日記はたいていキーボードを濡らしながら書いたものである。
その涙が私の気持ちにシンクロしてのことなのか、自身の経験を思い出してのことなのかはわからないけれど、感情移入してもらえるというのは本当に光栄なことだ。

誰かの文章を読みながら思わず泣いてしまうことは私にもある。つい最近もある女性の日記を読んだ後、しばらく涙が止まらなかった。
入院中のお父上の容態が悪いとあるのを読んだときからずっと気にかかっていた。なにか言葉を……と何度も思ったけれど、どう声をかけたらいいのかわからなかった。亡くなったと知ったとき、彼女の気持ちを想像して、そして一番つらいときにひとこともかけてあげられなかったことが悔やまれて、涙をぽたぽたやりながらメールを書いたのだった。

先日は読売新聞紙上で発表されていた「心に残る医療」体験記コンクールの入賞作品のうちの一編に泣かされた。
ひらがなだけで書かれた小学一年生の男の子の文章である。中にこんなくだりがあった。

 おかあさんは、たいいんしてからも、ちゅうしゃをしに、なんかいもびょういんにいきました。いっしょにおふろにはいってるとき、ちゅうしゃしたところのてが、くろくなっていたので、
 「いたい?」ときくと、
 「だいじょうぶ」とわらってくれました。ぼくはすこし、あんしんしました。
 そのうちに、おかあさんのかみのけが、どんどんぬけてしまいました。かみをあらったとき、ごっそりぬけたくろいかたまりをみて、びっくりしました。でも、おかあさんがかわいそうだったので、みていないふりをしました。おかあさんは、ないていました。ぼくもなみだがでてきたので、いそいでおふろにかおをつっこみました。
(読売新聞 2006年2月3日掲載 第24回「心に残る医療」体験記コンクール 小学生の部最優秀賞「おんがえし」より一部抜粋)


髪が抜けたお母さんを見てはいけないと思う、涙を気づかれまいとする……。そのけなげな機転に胸が締めつけられた。
「たった七歳の子にこんな知恵があるのか!」
愕然としたが、すぐにああ、そうだったと頷いた。よみがえってきたのは幼稚園のときの記憶。
お向かいのナオコちゃんがヒヨコを飼い始めた。うらやましくてうらやましくて毎日見に行っていたら、一晩だけ預からせてもらえることになった。その夜は遅くまで、私は玄関に置いたダンボールの中で元気に動き回るヒヨコを眺めていた。
そして翌朝、いつもより早起きして箱の中をのぞいたら……。ヒヨコは二羽とも冷たくなっていた。
私がわんわん泣いているところにナオコちゃんがヒヨコを迎えに来た。しゃくりあげながら「ごめんね、ごめんね」と繰り返す私にナオコちゃんは何と言ったか。三十年経ったいまもはっきり覚えている。

「なんとなくそんな気がしてたの。昨日チーとピーが天国に行く夢を見たから」

ひとつ違いだったから、ナオコちゃんは幼稚園の年長か小学一年生だったはず。それなのにとっさにそんなふうに言い、私をまったく責めなかったのだ。


何年か前に勤めていた会社には社内の人間だけがアクセスできるサイトがあった。「サービスとは何か」を考えるためのコンテンツの中にこんな投稿があった。

ファミリーレストランでアルバイトをしていた頃の話です。週に三、四回お越しになる、とても仲のいい老夫婦がいらっしゃいました。
注文するとき、おばあちゃんはいつも「おじいさんのお味噌汁は薄めにしてください」と私たちに頼みます。いいご夫婦だなあとほほえましく思っていたのですが、ふっつりと顔を見せなくなってしまいました。
心配していたら、ひさしぶりにおじいちゃんが来店されました。ずいぶん痩せておられ、それに今日はおひとり。どうしたんだろうと思ったら……胸に大きなおばあちゃんの写真を抱えていました。
おじいちゃんはいつもの席に座り、向かいにおばあちゃんの写真を置くと、カレイの煮つけ膳を二人分注文されました。そしていつものように話しかけながら、自分のには箸をつけないでおばあちゃんの口元にごはんやおかずを運んでいました。
おばあちゃんの写真はごはん粒がついて汚れていました。楽しそうに、でも顔をくしゃくしゃにして涙を流しながらおばあちゃんにごはんを食べさせているおじいちゃんを見て、私は必死で涙を堪えました。
近くのテーブルのお客様から「気持ち悪いからなんとかして」と言われましたが、おじいちゃんには言えませんでした。そのお客様にはお詫びして別の席に移っていただきました。
おじいちゃんのお味噌汁はいつもの通り、厨房の人にお願いして薄めのものをお出ししました。


私は仕事中に読んだことを激しく後悔した。
涙もろいと本当に困るのよね……。