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2005年06月22日(水) 「私の二十年を返して!」(中編)〜「たとえ一生なくても、この人と」

※ 前編(「夫の秘密」)はこちら

私が知る中にひとりだけ、婚前交渉なしで結婚した女性がいる。
五年前、職場の後輩に相談があると呼び出された。「プロポーズされたけど、結婚してもいいのかわからない」と彼女は言い、なにを思案することがあるのかと尋ねたら、付き合って三年になるのに一度もセックスをしたことがないのだと泣きながら話しはじめた。
自分に魅力がないからなのかと訊いても、彼は首を振るばかりで答えてくれない。彼女はどうしたらよいのかわからず、かといって彼と別れる気にはなれず、しかし誰に相談することもできず。考えてもつらくなるだけのそのことについて次第に考えないようになっていったという。
しかし、結婚話が持ち上がったことでそのことから目をそらしていられなくなったのだ。

「もしかしたら、この人とは一生できないかもしれない……」
セックスは子どもをつくるためだけにあるのではない。私がこれという解決策を与えてやれるはずもなく、そのあとも彼女は苦しんだ。
そして悩み抜いた末に「それでも後悔すまい」と心に誓って結婚した。

彼女がどうなったかについては過去ログをお読みいただくとして(URLは本文最後)、これはきわめて特殊な例だ。世の中広しと言えど、このような覚悟を持って式を挙げる人はまあいまい。
そう考えると、工藤さんのところにやってきた女性はよく二十年もその問題に蓋をしたままでいられたものだ、と驚くばかりだ。もしタンスの引き出しを開けることがなかったら、彼女は死ぬまでそれを外気に触れさせることはなかったのではないだろうか。

もちろん相当悩んだことだろうとは思う。しかし結果として、それを解決すべく夫に働きかけるまでには至っていなかった。
こんなに長い間、その異常な状況に甘んじていられたのはなぜか。
これは私の勝手な推測であるが、彼女は結婚前のセックスの経験がなかったか少なかったかで、かなり「ウブ」だったのではないだろうか。
どんなに甘い果実でも、その味を知らない人間はすでに知っている人間ほどにはそれを狂おしく求めるということがないのではないか。「一度食べてみたいな」という好奇心は「もう一度あれを」という希求にはかなわない気がする。

あるいは。
私の周囲に「アレ?もういらんわ、子どもも生んだし」と言う妻が何人かいるけれど、彼女たちがセックスを必要としないのは家庭生活が安定していて、それの有無や頻度で夫の愛情を量らなくても済むからではないか、と私は見ている。
この女性もまた、「夫はこれという欠点のない人で、気楽に暮らしてきた」と言っているくらいだから、そこそこ平穏な日々を手に入れていたのだろう。そのため、離婚を考えるほどには思い詰めずに済んでいたのかもしれない。


「だけど、知ってしまったらもうだめです」

女性は離婚する覚悟ができていると言った。工藤さんのところにやってきたのは今後の身の振り方を相談するためではなく、ある頼み事をするためだった。 (つづく

【参照過去ログ】 2003年1月9日付 「セックスレス」