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2005年05月13日(金) ケジメましょう

職場の朝礼でプリントが配られた。タイトルに「ドレスコード規定〜ビジネスの場にふさわしい、知性を感じる服装を〜」とある。
たとえばノースリーブやジーンズ、サンダル、ブーツがNGという会社は少なくないと思うが、学校じゃあるまいし、たいていは個人の自覚に委ねられているのではないだろうか。しかし、私の会社では「これは可、あれは不可」が明文化されており、衣替えの時期になるとそれが配布される。

ノーメイク → ×
香水 → ×
ストッキング → 肌色のみ○
素足 → ×
サブリナパンツ → ×
マニキュア → 透明か薄ピンク色のみ○


といった具合にずらずらと箇条書きになっているのだ。

細かいのは服装についてだけではない。
フロア内は飲食物持込禁止のため、机の上にペットボトルを置くことも土産のお菓子を配ることもできない。派遣社員は業務終了後にタイムシートにサインをもらうのが一般的であるが、この会社では「始業時刻までに席に着いていました」の証明として出勤時にももらわなくてはならない。「仕事中に足を組んではいけない」という決まりまであるのだから、厳しいというより神経質といったほうがよさそうだ。

しかしながら、ではそのあたりの規制がゆるければ気楽かというと、そうでもない。
私は数ヶ月前まで仕事を掛け持ちしていたのだが、女性が多いその職場にはルーズな雰囲気があった。夏はタンクトップにミュールをカンカンいわせながらオフィスを闊歩し、休憩に行くとちっとも帰ってこず、上司にはタメ口。
もっとも驚いたのは、ものを食べながら仕事をする人がいたことだ。外回りの人が差し入れてくれたシュークリームや土産で配られた饅頭を席でいただくのは幸福な瞬間であるが、朝食を食べ損ねたと言って始業のチャイムが鳴った後もサンドイッチやヨーグルトを食べている、スナック菓子の袋を机の上に堂々と置いている、という風景はほかの会社では見たことがない。
私は特別まじめな人間というわけではないけれど、適度なけじめがないとやはりストレスがたまってしまう。

ドラマを見ていて不思議でしかたがないのは、仕事中に友人や家族から電話がかかってくるシーンが当たり前のように出てくることだ。
もし同じように会社に電話がかかってきたら私はぎょっとするし、内容によっては怒るかもしれない。しかし、登場人物は同僚の目を気にするでもなく、「わかった、じゃあ七時にいつもの場所で」なんて会話をするのである。
たしかに、私の周囲にも「職場での私用電話はタブー」という感覚がない人はときどきいる。あるとき、先輩社員宛てに母親からかかってきた電話を取った。取り次ぐとき、私は「お母さまからです」と小さめの声で言ったのであるが、ほどなく彼女の「んー、寄り道して帰るからごはんいらない」という声が聞こえてきて、無用の気遣いであったと知った。

また過去に何度か、誰かに席を借りて、つまり他の人のパソコンを使って仕事をする機会があったのだけれど、遊びの要素が多いことに驚いた。
信じられないほど使いづらいのは、キーボードのタッチが違うとか、タスクバーが「自動的に隠す」になっていたりウィンドウまわりの色がカスタマイズされていたりすることだけが理由ではない。
マウスポインタがキャラクターものに設定されており、思ったところにすんなりカーソルを持って行くことができない。いらいらしていると突然ミカンせいじんが現れ、のんきに釣りをはじめたではないか。飽きたら縄跳びをし、昼寝をする。しまいには子どもを生み、画面をミカンだらけにした。
「コノー、人をバカにしてんのかあ」
と叫んだら、今度はペタろうが貼りついた。と思ったら、メッセンジャーにメッセージが届く……。
もう気が散ってしかたがない。

正しくあろうとばかりすると息が詰まる。お堅いことばかり言っていたのでは会社生活は楽しくない。上手に手を抜き、遊べばいいのだ。
とはいえ、公と私のラインを曖昧にしていることについて悪びれるところがなくてはやはり可愛げがないような気がする。机の上に子どもの写真を飾ったり、会社から支給されている携帯の呼び出し音を着メロにするといったことを私が好きになれないのは、あまりにもおおっぴらだからだ。
仕事中にお菓子を食べるとか、私用電話をするとか、ネットサーフィンをするとか。それらは「ちょっと気分転換ネ」なんて心の中で言い訳しつつ上司や同僚の目を盗んでやる、そういうものではないかなあ。