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2005年01月05日(水) 私が怖がりになった理由(後編)

※ 前編はこちら

留守中に部屋からなにかがなくなっていた、というのもぞっとするが、帰宅したときに出かける前にはなかったものを見つける恐怖も、相当のものである。

「なんか変。いつもとどこかが違う気がする」

部屋の入口に立ち、ぐるりと見回す。やがて天井付近に見慣れぬ物体を発見した私は唖然となった。
いつの間にか「エアコン」がついていたのである!
ど、ど、どういうことよ、これ・・・。
恐る恐る近づくと、ベッドの上に取り扱い説明書が。「留守だったので設置しておきました」という大家さんのメモを読み、私はあらためて、ぎゃーと叫んだ。

取り付け工事があるなんて、まるで知らされていなかった。
「突然の雨に大慌てで家に帰ったら、布団が取り込まれていた」という友人の話が笑えるのは他人事だからである。うちの大家さんはふつうではないのだ、わが事となるとシャレにならない。
工事に立ち会ったあと、業者と一緒にちゃんと部屋を出たのだろうか・・・。その疑念はしばらく胸に不気味な後味を残した。


その一件もすっかり忘れていたある日のこと、弁護士事務所から手紙が届いた。「賃貸契約に関する問い合わせは、今後こちらにご連絡ください」とある。
時を同じくして、大家さんの親戚だという夫婦がゴミ置き場や駐輪場の管理といったマンションの日常的な世話をすることになった、という案内文がロビーの掲示板に貼り出された。
大家さんが長く留守にしていることには気づいていたが、なにがあったのかは知らなかった。そこで同じ階の住人に訊いてみたところ、恐るべき情報がもたらされた。

「大家さんって入院でもしてるんですか」
「知らないんですか?事件起こして捕まったんですよ」
「ええっ、いったいなにしたんですか」
「いたずらだか婦女暴行だか・・・なんせそっち系の事件って聞いてますけど」

私は帰宅するなり、エアコンのフィルターやバスルームの換気口を外し、懐中電灯で中を照らした。壁や天井に穴が空いていないかを調べた。エアコンの件を思い出したのである。


そして、私を決定的に用心深い人間にしたのが、この半年後に起こった出来事だ。
その日は学園祭の直前で、私はサークルのメンバーとともにグランドでのリハーサルに参加していた。夜遅くにそれを終え、講義室に戻ったところ、私の荷物がない。
そこには百数十人分のカバンが置いてあったにもかかわらず、私のリュックだけが消えていた。

財布は身につけていたため、お金は無事だ。みなはそのことを不幸中の幸いだと言ったが、私はかえって気味が悪かった。なぜって、泥棒が肝心の財布の有無を確かめもせずカバンを盗むだろうか。
慌てていたので中を開けなかった、とは考えづらい。もしそうだとしたら大教室のど真ん中の席、しかも机の下に置かれていた私のリュックではなく、出入り口付近にあったカバンを選ぶのではないか。
中には手帳と家の鍵が入っている。財布だけを抜き取られていたのなら、不安はずっと少なくて済んだだろうに・・・と思った。
大家さんの代わりをしてくれていた老夫婦は「そこまで用心しなくても」と渋い顔をしたが、私は無理を言って、翌日鍵を取り替えた。

事件はひと月後に起こった。
正月明けに実家から戻った私はマンションのロビーの掲示板を見て、血の気が引いた。年末年始のあいだに十戸ほどの部屋に空き巣が入った、と書かれていたのだ。
私のところには連絡がなかったのでセーフだったのだということはわかったが、張り紙を読み進め、私は目を疑った。
被害に遭った一室からその部屋の住人のものでない物が発見された、として何枚か写真が並んでいたのであるが、うちの一枚に見覚えのあるものが写っていた。
茶色い革のリュック。そう、少し前に学内で盗まれた私のそれだ。


警察の人によると、犯人は同じ手口の犯行を繰り返しているセミプロで、盗んだ鍵で私の部屋に侵入しようとしたが開かなかったため、ベランダ側の窓に鍵がかかっていなかった部屋と荷物を運び出しやすい一階の部屋を荒らしたのだろう、ということだった。
炊飯器から布団からスーツから、なにからなにまで持ち出され、いずれの部屋にもケチャップやソースが撒き散らされていたそうだ。

「もしあのとき、鍵を取り替えていなかったら・・・」

そう思うと背筋が寒くなった。が、不謹慎ながら、ちょっぴりどきどきしたのも本当だ。
“調書”なるものを取られたのもモンタージュ写真を見たのも、初めての経験である。鑑識の人がドアについた指紋を取りに家に来たときは、まじまじとその仕事を観察してしまった。


正月が近づくたび、この一件を思い出す。そんなわけで、
「帰省したり旅行に出かけたりする方が多いと思うけど、みなさん、戸締まりには気をつけてね」
というふうにまとめて二〇〇四年の日記を締めくくる予定だったのであるが、ご承知の通り、手際が悪くて「後編」を年明けに持ち越してしまった。

この日記を読んでくれているということは無事に年を越したということだと思いますが、みなさん、今年も息災でまいりましょうね。