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2004年09月29日(水) カップルシートにご用心

先日、仲良しの同僚七人で中華料理を食べに出かけた。
この食事会は毎月恒例のイベントだ。月末に職場で『ホットペッパー』が配られると、私たちは休憩時間にあたまを突き合わせ、次回の店を決めるのである。
さて、予約時間きっかりに店を訪ねたら、かわいらしい個室に通された。わあ、と小さな歓声が上がる。みな、数ヶ月前の食事会を思い出していたに違いない。串カツ専門店でカウンターに横一列に並ばされ、話しにくいことといったらなかった。
しかし、今日は隣席から流れてくるタバコの煙を気にすることも、「会社の人間、いないでしょうねえ?」とあたりを見回すこともない。扉を閉めれば私たちだけの空間、少しくらい騒いだって平気なのだ。
「同じ値段やったら、ぜったい個室がいいよね」
「そりゃそうよ、得したって思うもん」
飲み物もまだのうちから、大盛り上がりの予感。……と思ったら。うちのひとりが「いや、そうとはかぎらん」と水を差すようなことを言い出した。
彼女が友人の男性と食事に行ったところ、案内されたのは“カップルシート”。背もたれが高く、サイドにも目隠しのための板がついているため、正面以外の三方が塞がれた形になる。
その他人の視線が遮断される個室感覚の空間、すなわち「ふたりきりでいるような気分になれること」こそ、店が考える付加価値なのであるが、ふだん隣り合って座ることなどないふたりは体の側面が密着する位置関係に戸惑い、すっかり調子が狂ってしまったらしい。
「彼の手前、席を替えてとも言えんし、まいったわ。ふたりで来てるからってカップルとはかぎらんのやし、妙な気回さんといてほしい」
聞けば、そこは小洒落た創作料理屋でもムード満点のダイニングバーでもなく、チェーンの安居酒屋だという。デートでこんなとこ使うか!というような店にまでどうしてそんな席があるんだ、と彼女はぷりぷりしている。
なるほどねえとうなづきつつ思い出したのは、最近立ち読みしたグルメ雑誌だ。「デート需要に対応すべく、個室、仕切り系の空間を用意する飲食店が増えている」とあり、すだれや格子戸で仕切られた照明暗めの艶っぽい個室やレースのカーテンが掛けられた甘いラブソファ席の写真が載っていたのであるが、私はそのうちのひとつを見てぎょっとしたのだ。
広々としたフロアに大きな白いベッドがずらりと並んでいる。掛け布団こそないものの枕があるべき位置にはクッションがふたつ、四方は天井から吊るされた布で覆われている。うんとお洒落でゴージャスな「蚊帳」をイメージしていただくと、もっとも実物に近づけるのではないかと思う(参照)。
「い、いったいここでなにをするわけ……」
心臓をばくばくいわせながら読みすすめたら、そのスタイリッシュなレストランでは料理はベッドの足元に置かれた「お膳」に運ばれることになっていることがわかった。
足を投げ出して座るなり横になるなりして家にいるときのようにおくつろぎください、ということなのだが、無駄に想像力がたくましい私は「ただの男友達と適当に入った店が、もしここだったら……」を思い浮かべ、あたふたしてしまった。
こういう空間は人の理性や判断能力といったものを著しく低下させるはずだ。ふだんは馬鹿話しか男性でも「ねえ、膝枕して」なんて甘えてみたくなるのではないか。そして、女性も雰囲気に呑まれて応じてしまうのではないだろうか。
そんなわけで、私たち七人の結論は「それ以上親密になることを望まない男の友人とは個室やカップルシートではなく、オープン席で明るく健全に楽しむべし」というところに落ち着いた。

そこから話は「恋人以外の男性とふたりで会うときに気をつけていること」というテーマに発展。
「あら、そんなこと考えたこともなかったワ」というタブーがいくつも挙げられ、私は驚くやら感心するやらだったのであるが、長くなったのでつづきは次回。

【あとがき】
一緒にいてときめかない相手とはふたりで会おうなんて気になれない私ですが(みんなは「友人なんだから、ときめきを感じさせてくれる相手である必要はない」と断言するけど)、タブーとかそういうことをあらためて考えたことはなかったなあ。もちろん自制はいろいろとしてるけど。ま、そんな機会自体がそうないんだけどね(ちなみに私はそういうときは夫に言って出かけます)。