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2004年07月16日(金) 男性と食事に行くと必ず苦悩すること

仕事帰りに同僚と寄った居酒屋を出るときのことだ。
出入り口のあたりがやけに混雑しているなと思ったら、男女六人グループがレジの前で頭を突き合わせ、なにやらしている。ちらとのぞくと、携帯電話で「合計÷6」をしているのであった。
ほどなく輪の中から「ひとり三千九百七十円ねー」という声があがり、彼らは立て替えた男性に支払いをはじめた。店員に両替を頼む者があるかと思えば、三十円の釣りを受け取る、受け取らないで押し問答をしている者あり、とそれはもう騒がしい。
傍迷惑というよりかなりみっともない図で、「そういうことは店を出てからやりなさいよ」と私は思わずつぶやいた。

とまあ、ちょっぴりえらそうに言ってみたが、会計時の振る舞いについては実は私にもかれこれ十数年、人知れず悩んでいることがある。
オンナ稼業をいったい何年やってるんだ!と言われそうだが、恋人未満の男性とふたりで食事をしたとき、レジの前をどんなふうに通ればよいのか、私はいまだによくわからないのである。
どんなに楽しい時間を過ごそうとも、店を出るときには必ずこの「居心地の悪さ」を味わわねばならない。おおげさなと笑われるかもしれないが、決して冗談ではなく、学生の頃はそれが嫌なあまり外食を避けた時期もあったほどなのだ。
一般的にそういうシチュエーションで財布を開くのは男性である。あとで女性が自分の分を出すことになっていてもそうするのは、レジの店員や周囲の客の手前、男性に花を持たせるためだろう。そういう気持ちは私にもあるので、「そろそろ行こうか」となったときにテーブルの上の伝票を自分が掴むことはない。
ではいったいなにが私に気詰まりを感じさせるかというと、「男性が支払いをしている最中の自分のポジショニングがわからないこと」なのだ。
と言ったら、「そういうときは女は先に店を出て、外で待っているものよ」という声が聞こえてきそうだ。うん、それがもっとも粋な方法とされていることは知っている。
しかし、私はこれがどうにも苦手なのだ。ひとりで先に店を出る、ということに、私はスマートさより「愛想なし」「水くさい」「キザ」という印象を持つ。そのため、「先に出てるね」をさりげなく言うことがどうしてもできないのである。
この“常識”は、男性が領収書を切るところを見ないようにという女性側の心遣いから生まれたものだと思われる。しかし、実際に食事代を経費で落とそうとする男性がどれだけいるだろう。私はおそらく経験がない。
それでもそうすることに意味があるのだろうか。出入り口の混雑緩和に貢献する、ということ以外に。
金額というのは、男性にとってそれほど知られたくない情報なのだろうか。カードにサインをしたり釣りを受け取ったりする姿を見られるのはそれほど決まりが悪いものなのだろうか。
女性が隣りに突っ立っていくらになるかをまじまじと見つめていたら無粋だと思うが、ちょっと離れたところで待っているくらいがわざとらしさのない、もっとも自然なあり方ではないかしら……。
そんなふうに私は思っているのだけれど、その男性がこの件に関してどう感じる人かわからないため、レジに向かって歩を進めながら毎回、先に外に出るべきか否かを苦悩するのである。

そして、「ごちそうしてくれるつもりなのかもしれない」と感じたときは、さらなるプレッシャーが私を襲う。
私の中に「もしそうなら、その日の終わりではなくその場でお礼が言いたい」という気持ちがある。そうしようと思えば、必然的に店を出たときに確認しておかなくてはならない事柄が発生する。
するとさっきまでのはしゃぎぶりはどこへやら、私は借りてきた猫のようになって、「えっと、あの、さっきの分は……」ともじもじしてしまうのである。
ここで男性が「今日はごちそうさせて」と言ってくれればワーイと素直に喜ぶし、「じゃあ次の店で出してもらおうかな」にも私の顔はぱあっと晴れる。
しかし、こんな私は野暮の極みで、彼らはもっとスマートな“精算の仕方”を望んでいるのかもしれないとも思う。ごちそうするにせよ割り勘にするにせよ、男性はこういう場面で女性にどんなふうに振る舞われるのが一番心地よいのだろうか。
ちなみに私は「今日は奢っちゃう!」というとき、彼にそばにいてほしくないとはちっとも思わない。
「細かいの、あるよ」と言われても恥ずかしくないし、興ざめもしない。それは相手の男性がただの友人でも憎からず思っている人でも変わらない。
私はふたりで食事に行くような男性とは、クールであるよりフレンドリーであることで親密になりたいのだ。

それにしても最近、手の内を晒すようなことばかり書いている気がする。食事に行ったら相手の食べ方や店員への態度をわりとよく見ているとか、ひとこともなく奥のソファ席にどっかと腰掛けてしまうような男性とは未来がないとか。
「マズイナー」と一瞬思ったが、よく考えたら(人妻である私には)なんの差し支えもないのであった。

【あとがき】
今日はごちそうしてくれるのかもしれない、って雰囲気でわかるじゃないですか。そんなとき、店を出たところで「帰りに払うねー」にできないのです。別れ際に「え、ごちそうしてくれるの?ありがとう」じゃなくて、そのときにお礼が言いたいのです。でも奢るほうの男性はどうなんでしょうね。自分以外の女性の気持ちもそんなにわからないけど、男心というのは本当にわかりません。