過去ログ一覧前回次回


2003年09月12日(金) 最悪の事態(後編)

※ 前編はこちら

ブックマークしている日記の書き手さんの中に、私が勝手に「この人はさぞかしモテるだろうな」と思っている男性がいる。
私はその方のプライベートも容姿も知らない。だから、この「モテる」は読み手からという意味である。取りあげる話題に関わらず、文章になんともいえぬ色気があるのだ。
有るものを隠すより、無いものを有るかのごとくそこに並べて見せようとするほうがずっとむずかしい。おそらく実際に色気のある人なのであろう。
もしこういう人が「今度出張でどこそこに行きます」と日記に書いたら、「よろしければお食事でも」なんてメールが一通や二通舞い込むのではないかしらん。つい想像力をたくましくしてしまう私だ。
しかしながら、色気や可愛げといったものが欠如した文章にも取り得はある。前編に書いたような事態に遭遇するリスクを下げてくれる、ということだ。「文は人なり」とはよく言ったもので、おかげで私はその手の厄介事とは無縁できている。
そんな私がいつわが身に起こっても不思議はないと想像する中で、もっとも避けたい事態はなにかというと、サイトばれである。
先日、私はアクセス解析のログを見ていて心臓が止まりそうになった。このサイトの存在は家族を含め、実生活で関わりのある人間には誰ひとりとして明かしていない。にもかかわらず、あってはならないところからのアクセスが記録されていたのだ。
なぜそれがわかったかをここで話すことはできない。しかし、私がもっとも知られたくないと思っている人物のうちのひとりがここを訪問したことは間違いない。
「これはまずいぞ」
マウスを持つ右手が硬直する。汗が背中をつたう。気づかれただろうか。「サイトばれ」「移転」「閉鎖」「長い間ありがとうございました」「404 File Not Found」といった文字が次々とあたまに浮かぶ。
このサイトに費やしてきた時間とエネルギーは、「しかたがない」とあっさりあきらめられるほどささいなものではない。なんとかここまで育てたというのが今の思いなのだ。そう簡単に手離せるわけがない。
友人のひとりが恋人と別れたくない理由をこんなふうに説明する。
「また新しい人探して一から恋愛するのってエネルギーがいるやん。恋人になってからも落ち着くまでには時間もかかる。若い頃はそこに到達するまでの過程が楽しかったけど、もうそんな体力ない。面倒くさい」
なにを言うの、好きな人と結ばれるまでの紆余曲折こそ恋愛の醍醐味ではないか、と私などは思うのであるが、この「新しい人と一から」を「新しい日記で一から」に置き換えたら、あら不思議。とたんに彼女の言うことに頷けるではないか。
うちは間違ってもデビューと同時にブレイクしたサイトではない(もちろん今もブレイクなどしていない。言葉のアヤというやつです)。
一週間メールボックスを開かなくてもなんの支障もなかった日々。さぞかし更新のし甲斐がなかっただろうと振り返る時期は決して短くなかったけれど、「書くのが楽しい」それだけで乗り切った。いや違う、「これだけ労力を費やして、こんなちょびっとの人にしか読んでもらえないなんて割に合わない」と思ったこと自体なかった。
しかし、もしここを畳むことになったら、私は「心機一転、またがんばろう」と思うだろうか。別人として出直そうと考えるだろうか。
想像するかぎり、答えはノーだ。立ち上げてからしばらく続くであろう、実績を作ってゆくためのあの日々を乗り切ることはもうできない気がする。賽の河原に石を積むような報われなさを、きっと私は感じてしまう。

問題の場所からのアクセス。救いだったのはリンク元が検索エンジンだったことだ。
このサイトには「結婚」「出会い」「男と女」といった恋愛系のキーワードで飛んでくる人がとても多いのだけれど(どんなサイトなんだ、うちは)、件の人物もそうだった。
ものすごく低い確率のはずだが、たまたまヒットしたと見てよさそうだ。ひと月経っても再訪の形跡がないところを見ると、ブックマークされた可能性も少ないだろう。
ログの中にそれを発見したときは生きた心地がしなかった。日記リンク集から飛んできたものでなくて本当によかった。
今日もこうして日記が書けて、モニタの向こうには読んでくれる人がいて。ああ、幸せ。

【あとがき】
知人、友人に見られることのなにがイヤって、「一方的にこっちのことを知られること」なんです。私がここに書いているのはわざわざ人に話したりしない、頭の中にある事柄であることが多いので。われながら潔癖だと思いますが、日記を通じて知り合った人がリアルの友人になるのはうれしいことだけど、リアルの友人・知人が日記の世界に入ってくるのは生理的にイヤ。不快で耐えられないと思います。