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2003年04月30日(水) 不戦敗

先日、NHK教育の『かきこみTV』という番組を見た。十歳から十五歳の子どもたちからのメール投稿でつくる、『真剣10代しゃべり場』のメール版のような番組だ。
前回は中学二年生の男の子からの「好きな女の子にどうやって告白したらいいか悩んでいます」の相談に乗るという内容だったのだが、「メールは気持ちがこもりにくいから、やめたほうがいいと思います」「話すことを紙に書いておいて、電話をするというのはどうでしょう」といった初々しいコメントが次々と紹介される。
私も好きになったら、気持ちを伝えずにはいられないタイプ。過去におつきあいした男性の半分は自分から告白した相手だ。そのときのドキドキを思い出しながら、若いっていいなあと懐かしい気持ちで見ていた。

とはいうものの、どうしても勇気を出せなかった恋もいくつかある。
挑戦せずにあきらめるのは私のポリシーに反するが、しかし「手の届かない人だ」という悲しい確信を持たざるを得なかったことはたしかにあった。
大学時代、バイト先のカラオケボックスに優しい男の子がおり、私は彼のことを好きになりかけていた。ある日ふたりでフロントに立っていたら、有線でサザンオールスターズの歌が流れた。当時、「シュラバ★ラ★バンバ」と「涙のキッス」が流行っていた。
「小町ちゃんはどっちが好き?」
私は彼の質問に「『シュラバ★ラ★バンバ』!」と即答。彼は「ははは、小町ちゃんらしいね」と言って笑った。
私はその反応にとくに意味を見いださなかったが、彼がその後につづけた言葉を聞いてどきりとした。
「でも○○さんだったら、『涙のキッス』って言うだろうなあ……」
彼自身がどちらの歌を好きだったのかは知らない。しかし私はそのひとことで、彼は「シュラバ★ラ★バンバ」を好きだという女の子より、「涙のキッス」を好む女の子が好きなんだと悟った。そして、彼が自分ではない女の子に思いを寄せているということも。
「誰の、どんな歌を好むか」に込められている情報はあなどることができないと思う。好きな歌手というのは「人柄」と「歌(の雰囲気)」というふたつの要素の掛け合わせで成り立つから、そこからその人が惹かれるもの、求めているものをかなり正確に読み取ることができる気がする。とくに、キャラクターと歌がぴったり一致している感のある歌手を好きだという場合。たとえば槇原敬之が好きだという人がいたら、私は「この人は素朴な清らかな人っぽいな」「心根の優しい人を好きになりそう」と想像する。
そんなわけで、気になる人に好きな歌手を尋ねるとき、私はいつもちょっぴり緊張する。「今井美樹」と言われるのもきついが、「岡村孝子」なんて返ってきたらどうしたらよいだろう。「あなたを振り向かせようなんて身の程知らずでしたー」としっぽを巻いて逃げ出してしまいそうだ。

押入れの整理をしていたら、見慣れぬダンボール箱が出てきた。夫が学生時代からためこんでいたCDやカセットテープが詰まっていたのだが、ラベルを見てびっくり。岡村孝子に谷村有美といった名前がずらり並んでいるではないか。
「ちょっと、ちょっと……。こういう趣味やったん?」
「そうだよ」
出会った頃に聞かされなくてよかった。戦う前に戦意喪失していたかも。
そういえば、彼の好きな女優は松たか子。この三人を並べたら、ある種のイメージが見えてきそうだ。
そしてどう考えても、私は同一ライン上にはいない。人種から違う感じ……。
彼はこのあたりの折り合いをどうつけているのかしら。聞いてみたい気もするが、ちょっとこわい。

【あとがき】
私は自分を卑下したりしないけど、「自分は(この人に)ふさわしくない」と思ったことは過去に一度あります(夫のことではない)。もちろん、学歴とか家柄とかそういう問題ではなく。「こんな心のきれいな人、私には不相応だよ。やめときな」と思いましたね。でも好きだったんです。抑えておくこともできなかった。だけど、やっぱり手を伸ばすべきではなかったんだろうなと思います。もう遅いけど……。