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2002年06月10日(月) 女がプライドを破壊されるとき

先日ワイドショーで、人間国宝の歌舞伎役者、中村鴈治郎と五十歳年下の祇園の舞妓のホテル密会が報じられていた。
ご存知ない方のために少々説明したいところだが、一部、自分の言葉を使うのがはばかられる箇所もあるので、サンケイスポーツの記事から文面を拝借する。

報道陣の前に姿を現した鴈治郎は、「ホテルの部屋ではビデオを見たり、話をしたり」と説明した。
しかしながら、部屋を出る孝蝶さんを見送る鴈治郎はバスローブ姿。しかも、ナント、ドアの前でバスローブのすそを開き、男性のアソコを見せる衝撃写真も撮られてしまった。
深い仲の男女のなせる愛敬たっぷりの姿といえそうだが、「こうやってチラッとやっただけ。おかしいなー」と、すそを直すしぐさを必死にアピールしていた。


本来ならこんな品のない話題はさっさと通り過ぎるにかぎるのだが、いま私にキーを叩かせているのはフリーランサーの加藤タキさん(こんな肩書き、初めて聞いた)という方のコメントである。
「ご立派ですよ、逃げも隠れもせずに堂々と会見なさってね。そんなお年にはとても見えないですよね、生き生きとしてらっしゃって。ほんとご立派。いいんじゃないですか、夫がそうやっていつまでも若々しくいてくれたほうが奥様もうれしいと思いますよ」
この人がホホホと笑いながら、あんまり「ご立派、ご立派」を繰り返すので、あれ、これは微笑ましい話だったっけと一瞬考えてしまったほどである。
私は友人と軽口を叩き合うのが好きな人間だけれど、「これだけはどうしても笑えない」という冗談がある。
わが夫は仕事柄出張が多いうえに学生時代を過ごした北海道にもしょっちゅう遊びに行く、家を留守にしがちな人であるが、この話をすると「地方妻がいたりして」「北海道に女がいるんじゃない」などと面白がって言う人がときどきいる。
私はこのテの冗談が大嫌い。彼女たちがほんの思いつきで口にしているのはわかっているのだが、どうしようもなく不愉快な気分になる。バカにされたような気がするのだ。
私は常々思っている。パートナーに浮気されるほど、女がプライドを破壊されることはないのではないだろうか。女として見られていないと思い知らされるほど、つらいことはないのではないか。
夫がよその女とよろしくやっていたと知ったら、妻は相手の女を恨むのと同じぐらい激しく、自分の甲斐性や魅力の欠如を嘆くだろう。それは彼女から自信を奪い、苦悩のどん底に突き落とす。
男性タレントが浮気がバレた際の釈明会見で、「奥さんはなんと?」というリポーターの質問に、「泣いて暴れて大変でした」「家を出て行きました」と答えているのをいまだかつて見たことがない。
夫への愛が健在であれば「私を裏切ったのね!」、愛がなければ「よくも恥をかかせてくれたわね!」で、大変な修羅場になっているであろうに、答えはいつも判で押したように「笑ってました」か「『バカねえ』とあきれられました」である。
それはなぜか。
周囲の人から哀れまれること、「だんなさんは奥さんに満足していなかったのね」と思われることほど妻にとって悔しく情けないものはない。自分の不貞で妻のプライドをズタボロにしてしまった夫は、これ以上みじめな思いをさせないために「彼女は余裕の顔をしてました」というふうに言うしかないのである。
ちなみに今回の鴈治郎の弁は、「笑ってましたよ。『モテないような男を夫にするのはイヤ』ともよく言ってたし」であった。
まもなく金婚式を迎える中村鴈治郎・扇千景夫妻がおしどり夫婦を世間にアピールしてきたのは、それなりに得るもの、守りたいものがあったからであろう。美貌と職業人としての成功、円満な家庭を手に入れたと世間から評されている女にとって、夫の醜聞は己の恥以外のなにものでもない。今回の千景さんもさることながら、ヒラリー夫人の苦悩と怒りは想像を絶するものがあったと思う。
「夫がモテるっていうのはいいことじゃないですか」は前出の加藤さんの言葉であるが、「モテる」と「女遊びをする」は同義語ではない。夫がモテるのを歓迎する妻は少なくないかもしれないが、「だから浮気オッケー」かというと別の話である。
それを本心から認めていそうな妻はというと、「一歩外に出たら、夫は公共物だと思うようにしてます」の安藤和津さん(奥田瑛二さんの妻)くらいしか思いつかない。

【あとがき】
奥田瑛二さんが18才の愛人への薬物レイプ疑惑でワイドショーにつるしあげられたとき、彼女が夫の不始末を尻拭いする会見を行ったのは記憶に新しい(……エ、私だけ?)。「バカな夫がお騒がせしてすみません。たしかに彼は不倫をしたけど、薬を使うなんて彼の美学に反することは絶対していません」という世にもめずらしい会見であった。
仁科明子さんも母親のような妻ではあったが(松方弘樹さんが海外へ仕事に行くときには避妊具をひと箱カバンの中に入れてあげていた。また、「福岡のホステスの部屋でパンツひとつでいるからいますぐ着替えを持ってこい」と電話がかかってくれば、新幹線で急行したという)、仁科さんの場合はただの言いなり。家庭内での人権がまったくない。安藤和津さんは「出来の悪い息子」である奥田さんを手の平の上で転がしている。なにがあっても私がその境地に達することはないが、彼女のことはまったく別のタイプの女性としてアッパレと思う。