オリビエの日記

2005年03月31日(木)    『スマスマ』特別編 ��

    
    『希望の家』から3時間ぐらい車で走り、ピーター君とファーサイちゃんが生まれたカレン族の村に到着した。
   この村はタイとミャンマーの国境に近い。
   105世帯、600人ほどの人が住み、とうもろこしなどを作って生計をたてている。

    ピーター君が2歳のとき、父はバンコクに出稼ぎに行った。
   そして、エイズに感染し、村に戻って亡くなった。
   母親もエイズに感染した。
   父と母、そして生まれたばかりの弟が、わずか1年ほどの間に次々と亡くなった。
   エイズ感染を疑われ、引き取り手のないピーター君を村の長老が引き取って育ててくれた。
   ピーター君が希望の家に引き取られたのは5歳のときである。
   11歳のピーター君が生まれ故郷に帰られるようになったのは、2年前のことだ。
   
    親戚の家でピーター君はぎこちない。
   部屋の壁によりかかって座ったまま静かだった。
   この村に向かうとき、はしゃいで騒いでいたピーター君とは大違いだ。
   同行した寮母のタッサニーさんが、
   「今日のピーターはいつもよりおとなしいわね」と微笑みながらいった。
   育ててくれた長老が現れてから少年ピーターに小さな笑顔が見られた。
   長老は「耳が大きくなったなぁ」と、少年の左の耳を触った。
   ぎこちなくも嬉しそうに微笑むピーター君。
   「お父さんにそっくりになったよ」
   「学校で勉強を頑張るんだよ」
   「りっぱな大人になるんだよ」
   82歳の長老チッテさんが優しく声を掛ける。
   微笑んで聞いているピーター君の目は、どこか虚ろに見えた。
   元気で人懐っこいピーター君が、ここでは自ら言葉を発しなかった。
 
    ピーター君の親戚は伝統的なお料理を作って剛君をもてなしてくれた。
   床に並べられたお料理を見て、突っ立って戸惑った顔をみせる剛君。
   粗末な器に盛ったお料理は、全てどろどろに煮詰めていて何が入っているか想像もつかない。
   床に座り、両手を合わせ、意を決したように料理に手をのばした。
   「おいしい」
   恐る恐る食べた剛君だったが、おかわりをしたという。
   私はホッとした。
   この村では、かなり頑張ったおもてなし料理ではなかったのかと、感謝の気持ちがあったからだ。
   「自然の味。化学調味料なんか使っていない味。葉っぱなんかの体に優しい感じなのよ」
   上っ面の言葉ではなく、自然に出てきた言葉のようで説得力があった。

    剛君はファーサイちゃんの家に向かった。
   8歳のファーサイちゃんが『希望の家』に引き取られたのは5歳のときである。
   バンコクに働きに出ていた母親が、エイズに感染して子育てが出来なくなったからだ。
   玄関にファーサイちゃんの母親が笑顔で迎えた。
   最近、病気を抑える薬が支給され、日常生活に支障がないという。
   少女の母は28歳である。
   ファーサイちゃんは母の胸で嬉しそうに甘え、母もまた笑顔で娘を抱きしめた。
   祖母や集まった親戚もファーサイちゃんの里帰りを心から喜んでいるようで、
   和やかで幸せが満ち溢れているような家族団らんである。
   ファーサイちゃんの母は、素敵な刺繍をしたポシェトを剛君にプレゼントした。
   腕にも手作りのブレスレットを結んでくれた。
   「貧しくて無知だったからエイズに感染してしまった」
   だから、
   「ファーサイにはきちんとした教育を受けて欲しいと願っている」
   
    ファーサイとは青空という意味である。
   ファーサイちゃんはいつまでも母に甘えていた。      


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