**** ウチのお嬢(=本名:モカ)の犬エッセイ集です ****
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- 2004年11月26日(金)
- ダックス・イン・ザ・パーク―最終回―「犬日和」


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ダックス・イン・ザ・パーク
DACHS IN THE PARK


ハラタイチ  書き下ろしロングエッセイ―最終回―

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別名「犬バカ日誌・最終回」

※最後まで、犬バカで親バカな内容で締めさせていただきます。








最終回


(1を読んでいない方へ。 注…「お嬢」=「彼の愛犬であるメスのミニチュアダックス」)






様々な種類の犬たちが、広大な園内に敷き詰められた芝生の上を駆け回っている。
柴犬、ゴールデンレトリバー、ボーダーコリー、ダルメシアン、トイプードル・・・。
足の長い、いわゆる普通の犬は、四肢を鮮やかに駆って流れるように走っていく。
四つの足が伸縮しながら動き、上体を安定した高さに保ちながら平行移動していく感じが、
あまらに美しく滑らか過ぎて、その洗練さが彼には精密機械のような動きにも見えた。

ご存じのようにダックスフンドは足が短く胴が長い。走るにも足さばきだけでは追い付かないのか、
長い胴を懸命に曲げたり延ばしたりして、短い足の稼働範囲を補いながら全身で走る。
身体をいっぱいに使ってがむしゃらに疾駆する姿に、イキモノ的なリアルさを感じると彼は云う。
ダックスの走る姿が、彼はとても愛らしくて仕方がなかった。走るだけでも愛らしいのに、
「おいで!」と呼んで、自分に向かって走ってくる日にゃ、走る犬はチワワではないけれども
アイフル父さん状態になる。彼曰く、その花道に天鵞絨の絨毯を敷き詰めてあげたい気分になるらしい。
「ダックスほど公園へ連れて来た甲斐がある犬はいないのでは?」と、さらに彼は親バカをかます。

彼はお嬢をリードから解き放ち(本当は公園ではいけないのですが…)、深い芝生の絨毯の上を
思いっきり走らせようとした。しかし彼の思惑に反して、お嬢はすたすたと歩くだけ。
そして、へたっと尻を落として、「何で走らなきゃいけないのよ?」という眼で彼を見る。
(あーこのオンナわっ!)と彼は自ら走り出し、お嬢と距離を開ける。するとお嬢は、
「ちょっと待ってよ、何よ、あたしを置いてく気?」と必死になって彼を追いかける。
満足そうな笑みを浮かべた彼の目の端に、まわりの人達の過度なリアクションが捉えられた。
最初は横目で不思議そうに見るだけなのだが、通り過ぎた後に決まって同じタイミングで反応する。
あまりに小さいお嬢の姿が深い芝生のために気付かず、至近距離でやっと肉眼で捉えて驚いている。


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こうして走っていく途中で、あるいはお嬢が突っ込んでいった先で、またも色んな人と出会う。
その先々で、必ず「ちいさ〜い」と云われるのだが、彼はやっと気付いたことがあった。



「その仔ワクチンは終わってるの?、え、終わってる?!何ヶ月なの?!」

と、犬を知っている人たちから何度もこのように聞かれる。考えてみれば、公園に入る前から
ワクチンのことは聞かれていた。そう、誰もがまだお嬢を2〜3ヶ月ぐらいだと感じるらしく、
ワクチンが終わってないのに散歩させていると思っているのだ。

犬というのは必ず「五種ワクチン」を2回は打たないと散歩させてはいけない。
そうすると、ワクチンが終わるのは大体5ヶ月ぐらいの頃になる。
つまり公園に来ている犬は皆少なくとも5ヶ月以上は経っていて、最低限それくらいの大きさに
育っているのが普通と思われているらしい。その中にあって、2ヶ月すぎた赤ちゃん程度の
大きさしかないお嬢は、公園の愛犬家達の目には、ありえない小ささの犬として映っていたのだ。
彼は改めて周りを見渡してみた。公園にいるあらゆる犬種のすべての犬の中で、贔屓目でなく、
圧倒的にお嬢が一番小さい犬であった。世間の物差しで計ったお嬢の小ささを初めて知った。
みんなが一様に振り向いて驚いていたリアクションの秘密が、やっと彼は理解できたようだ。


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「えぇっ!5ヶ月!、ちょっとKってば、この仔コジローと同じだってよ!」


【本日19人め】Tさん(女性/27歳)【本日20人め】Kさん(男性/28歳)
【犬その1】ケン(ミニチュアダックス/2歳/レッド)
【犬その2】コジロー(ミニチュアダックス/5ヶ月/クリーム)

※13人めからTさんまでに、お嬢のお客様が5人いましたが省略しています。


またしてもお嬢の小ささに驚いていたのは、2歳のレッドカラーのミニチュアダックス・ケンと、
お嬢と同じ年のコジローという2匹のダックスを連れた、若いカップルであった。
最初に話しかけて来たのが、レッドカラーのケンを連れていたTさん。
お嬢がすでにケンを追いかけまわす中、TさんはあわててKさんとコジローを呼んでいる。

「え、その仔がコジローと同じ年? え、5ヶ月なんですよね? うそでしょ?」

お嬢と同じ年だというコジローを連れたKさんは、目を丸くしてお嬢の前にしゃがんだ。
お嬢は匍匐(ほふく)前進挨拶をKさんに済ませると、その横にいたコジローへアタックする。
コジローも5ヶ月の割にはどっしりとして、お嬢のテンションを男犬らしく受け止めている。
そう、このコジロー君は、同じ5ヶ月なのにお嬢の倍の大きさをしていたのだ。

「体重何キロですか?、えー1.3キロ?!、コジローは2キロ超えた位なんですけど、これでも
 すごく小さいと思ってたんですよ。へーー小さ〜い、いいですね〜、コジローもこれ以上
 大きくなってほしくないんですけどね。このぐらいまでの大きさがかわいいんですけどね」

思い出していた。彼のもう一匹ブラックタンも小さいダックスだったが、
おそらくこのコジロー君と同じサイズなんだろう。確か同じくらいの時期で2キロぐらいだった。



ふと気付くと、彼等の横に外人さんが笑顔で立っていた。
TさんKさんが先に挨拶をして、彼も「どうも〜」と云った。


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【本日21人め】ジェシカさん(英国人女性/29歳)
【本日22人め】クラークさん(英国人男性/31歳)


「オゥパピー、カワイイデスネ、チョットダイテモイイデスカ?」

彼とTさんKさんの3人がお嬢を撫で回していた時、夫婦でジョギング中だったにもかかわらず、
見とれて立ち止まってしまったらしい。妻のジェシカさんに犬を抱かせてほしいとお願いされて、
彼はお嬢を抱き上げジェシカさんに渡した。「オゥ…カワイイ…」と彼女は流暢につぶやく。
旦那のクラークさんは、KさんとTさんにケンとコジローを撫でさせてもらっていた。

お嬢を抱いて顔が綻ぶジェシカさん。Tさんがクラークさんにケンを触らせて、コジローを抱いた
Kさんがクラークさんと笑いながら話している・・・。
少し離れた位置で見ていた彼は、ふとその光景が、傍観者の視界で目に入って来た。自然と頬が緩み、
当初の予想とあまりに異なるイベント展開に、目の前の光景が非現実的なものに見えて来たのだ。
まるで作り物のような世界ではないか…そう思った時、彼は急に目を見開いた。
(待てよ、どちらかというと非現実的なのは・・・今の俺の方なのか?)

ふと気付くと、ジェシカさんに抱かれているお嬢が、彼女の太い腕から前足2本を垂らしたまま、
キョトンと彼を見つめていた。お嬢の視線を代弁するかのように、ジェシカさんが彼に訊いた。

「ダイジョウブデスカ?」


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木々の影が長く伸びていた。陽の暖かみが次第に弱々しくなってきている。
肌寒さが頬を撫で始めると、彼は身体の芯が熱くなっていることを自覚し始めた。
それはココロの暖かみであった。バッグから取り出したボトルの先を、水をねだるお嬢の舌先に
向けながら、彼は己の中にある上気したテンションを吟味してみた。

お嬢は自らの公園デビューと共に、22人とのコミュニケーションを彼にプレゼントしたのだ。
彼は、初日から大勢の指名を取り付けた、大物新人ホステスを雇うマネージャーの気分は、
今の自分の気分とどのくらい近いものなのかを考えてみたりした。

青空が広がると、何故人々は公園に集まってくるのか。
今の彼にとっては、今日のようなコミュニケーションが目的では無いはずだ。
休日のコミュニケーションは、かえってウザいぐらいなものだと彼は思っていたに違いない。
ただ「だって公園日和じゃない?」という理由で公園に足を運んでしまう人たちと変わらない
テンションで、彼もふらりと今日の公園に来ただけであった。

休日になるとにふらりと公園へ赴き、ベンチで一日を悠々自適できる程、
彼はセレブ気取りでもなく、根っからの外出好きでもなく、電波な夢想家でもない。
今日が青空で、ダックスを走らせたくて、だから「公園」だった。それだけだった。
公園とダックスは似合うし(親バカ)、青空と公園は似合うし、青空と公園の下には人が集うし、
連れていた犬がたまたまダックスで、たまたま極小の快活なお嬢だったから、
ごく自然に彼の周りに人が集まり、無理をせず自然にコミュニケーションが生まれた。
彼の鬱は一時的にでも晴れやかになった。結果として、彼は己に一番必要なものを得たのである。
だからといって今後、それを目的として公園に出かけていくことは、やはり彼にはあり得ないのだ。
今日のような空が広がっていて、ダックスが物欲しそうな目で彼を見つめたならば、
再び彼は公園へと足を向けるのであろう。それだけなのだ。
「犬日和」だから、公園へと出かけていくのである。

空と、犬と、公園と――。



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自然と大きく闊歩して歩く帰り道、リードが後ろへピンと張った。
振り返ると、お嬢が前へ足を突っ張りながら何かを云っている。

「ゆっくり歩いてよ!疲れてんだから、少しは気をつかってよね!」


またしても責められている彼であった。











※舞台の公園は、
東京・練馬区の「光が丘公園」でした。



ーーーー「光が丘公園編」完ーーーー




04 11 26
t a i c h i




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