ことばとこたまてばこ
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| 2006年08月25日(金) |
エレクトリック心中エレクト |
何処に僕と彼女は居たのか。 思いだせなかった。彼女も記憶が薄れていた。 僕らは懸命に思いだそうとしていた。
思いだせない、たしか、あの時ついに知ったはずだ、風の歌。 思いだせない、たしか、感じたはずだ、むせかえる緑の臭い。 思いだせない、たしかに、聴いたはずだ、視線のぶつかる音。 思いだせない、たしかに、痛かったはずだ、あばら骨の疼き。 思いだせない、たしかに、ぬくかったはず、握る手の暖かみ。
思いだせ、思いだせ、身体の隅々にまで神経を張り巡らせて、思いだせ、思いだせ!
白が弾けた。
そうだ、あの沼地。 底知れぬ暗い緑の沼地、そこの奥まった所の、そうだ、 此処にかつて僕らは居たのだった。
クチクチキと硬い光が差し込めていた。 やわらかく光に暖まったベンチに腰かけ、 僕らは心地よくまどろみ、しゅるしゅる 目の前を飛びまわるトンボをただ眺めてた。
吐き気を催す腐った沼の臭いは、まるで僕らにおあつらえ向きだ、と笑ったな。 僕らが沼へ足を踏み入れたあと、魚がぱしゃりと跳ねた水しぶき、浴びてたな。 ぴしゃりと静まりかえった沼に浮かぶ、落木とぼんくらな僕らぶぶぶぶぶぶぶ。
僕らが進んで盲いった風景の中に見えるもの。
ぬめぬめと艶かしい情感の軌跡が、 天空の極みより地底の果てにまで、 まっすぐのいっぽん、たらり、と。
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