日常のかけら
目次backnextclose


◇どこ?◇

境内で御輿が踊る。
今年の豊作を祝う祭りだと、宿の主人が教えてくれた。
神社の本殿の前は御輿見物の人でごったがえしていたけれど、人の頭の上に放り上げられるような御輿の動きは悟空を夢中にさせた。

夢中で陽の光に飾りをひらめかせて宙を踊る御輿を見つめていた悟空はいつの間にか三蔵と離れてしまっていた。

「あれ…?三蔵?」

ひとしきり参拝客に披露して、御輿はまた、街へ練り歩きに参道を動き出した。
引いた人波のあと、本殿の前で三蔵を探す悟空の姿があった。

「三蔵ぉーっ」

くるりと周囲を見渡してもあの綺麗な金糸は見えなくて。
不安に駆られて走り出そうとした襟首を掴まれた。

「何処行く」
「ふぇっ?!」

振り返れば、三蔵が半ば呆れた顔で立っていた。

「三蔵!」

掴まれたまま三蔵に抱きつこうとする悟空にため息をこぼして、三蔵は手を離すが、すでに悟空は三蔵の腰にしがみつくようにして抱きついていた。

「ったく…気が済んだのなら帰るぞ」

ぽんぽんと頭を叩いて身体を離させるのへ、悟空は嫌だと首を降るから、

「仕方ねぇな…」

そう言って、三蔵は本殿の端に悟空を抱きつかせたまま移動し、煙草に火を付けた。

「これが吸い終わったら帰るぞ」

もう一度、悟空の頭を叩けば、微かな頷きが返った。

(三蔵&悟空)

2014年11月03日(月)