日常のかけら
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◇七草粥◇

「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ」

指折り数えて、悟空が笙玄の横で唱えている。
春の七草か。
もう、そんな時期か…。

今日は朝から吹雪いているのに、春の七草とはな。
まあ、悟空の気が紛れるのならそれもいい。

雪が降れば、昏い顔をして蹲っていることを思えば、どんなにかいい。

「これがセリ?」

指差す悟空に笙玄が頷く。

「こっちが、ゴギョウです。ハハコグサっていうんですよ?」
「ハハコグサ…あ、黄色い花が咲くんだよな?」
「そうです。で、こっちが、ナズナで、ぺんぺん草って言った方がわかりやすいですよね」
「へえ…ぺんぺん草も食べるんだ」

指先にナズナを摘んでしげしげと眺めて、悟空は不思議そうな顔をする。
俺だって不思議だ。
どう考えてもニワトリのエサか、雑草にしか見えねえ。

「ハコベラというか、ハコベがこれで、こっちがホトケノザです」
「うわぁ…マジ、雑草じゃん」

悟空の言葉に笙玄が苦笑を浮かべる。

「で、スズナって?」
「これ、カブラのことで、スズシロは大根のことです」
「へぇ…これをどうするの?」

小さなカブラと大根を弄りながら悟空が問えば、

「お粥に入れて食べるんですよ。そうすると今年一年、災いを除け、長寿富貴を得られるんです」
「ちょーじゅ…ふ、き?」
「病気もしないで豊に暮らせて、長生きが出来るという意味です」
「そっか」

笙玄の説明に悟空は頷くと俺の傍に駆け寄って来た。
そして、

「三蔵、たくさん食べて元気で長生きしてくれよな」

と、言うから、思わずハリセンで殴った。

「何すんだよぉ…」
「俺はジジイじゃねえ」

睨めば、

「知ってるもん。俺はずーっと三蔵と一緒にいたいだけだもん」

そう言ってむくれた。
それに返す言葉を考えてる内に、笙玄が堪えきれずに笑い出した。

ったく…

何となく頬が熱くなったのは気のせいだ。
そう、俺は思うことにした。

(三 蔵)

2007年01月07日(日)