| 2012年08月08日(水) |
八月花形歌舞伎「伊達の十役」 |

昨日8月7日に観てまいりました。
市川海老蔵が十役を早替わりで演じる、とにかく海老蔵づくしの舞台。
2年前の初演の時は、「おっ こんなのやるんだー?」と気づいたときには
時すでに遅くチケット完売でしたので、今回はしっかり発売日に取りましてよ。
そういえば新橋演舞場は去年八月に歌舞伎を観た以来。
ロビーには、演舞場のお向かいがご実家の宮本亜門氏と、
海老蔵夫人のお姉さまである小林麻耶さんのお姿も。
面白かったです。そして凄かったです。
歌舞伎はたいてい時間が長いものですが、これにいたっては四幕でほぼ4時間。
幕間の休憩も含めると、午後4時30分に始まって終了時刻が午後9時10分。
これを毎晩休みなく1ヶ月間。(この他に昼の部の公演にも出演しておられる)
舞台人はアーティストな上、凄まじいアスリートだといつも思いますが、
歌舞伎役者というのはその最高峰にいらっしゃると思うようになりました。
それを鑑賞するために5時間も演舞場内に居なくてはならない客にも、
観てるだけとはいえ相当の体力が要求されましてよ。
足利家のお家騒動を描いたこのお話、
まずはご本人が登場人物をすべて解説してくれる「口上」から舞台は始まります。
ひとりで善人・悪人・立役・女役、関係が入り組んだすべての主要人物を演じるので、
この解説はとてもわかりやすくてありがたい。(その上さらにわたしにはイヤフォンガイドという強い味方が必要だが)
「伊達の十役」というのは通称で、正しくは「慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)」と言い、
その意味も口上で説明しておられましたが、
「恥も外聞もなく、 紅葉のように顔を真っ赤にして大汗をかきながら、
次から次へと早替りで十役を演じる」という意味だそう。まんまですね!
「殺し殺され、裁き裁かれ、宙を飛び地に潜り、十役を四十数回の早替わりで演じるためには、
皆さまから普段の十倍ものご声援のほどを」との挨拶に、満員の会場からは盛大な拍手が。
「千両役者」という呼び方がふさわしい華やかな役者さんですよねー。
男役は殿様から大悪党、忠臣やインチキ坊主まで、立ち居振る舞いの演じ分けは本当にお見事でした。
ただ、声色の使い分けは難しそうだったかも。特に女役は。
しゃべりかたというか口調は変えられても、声色まではなかなかね。
わたしはこの方の女役というのを観たことがなかったので、今回、腰元、花魁、若君の乳母など
いっぺんに観れるのを楽しみにしつつも若干の不安もありまして。
だって、オトコマエさんだけど男顔だしガタイはいいし!
このお顔で女役で女の声出すってちょっと想像できなかったんだもの。
でも、自分の子どもを犠牲にして若君を守る乳母「政岡」の姿には、うっかり泣かされそうになりましたよ。
うっかりというのも失礼だが、だってまさか海老蔵演じる乳母に泣かされるかもなんて
思わないじゃないですか!(さらに失礼) 腹の据わった強い、でも哀しい乳母でした。
若い女性役より年配の女性役の方が、味わい深く演じられていたような気がします。
海老蔵の宙乗りは「義経千本桜」の時に、桜吹雪の中を嬉しそうに天に昇ってゆく子狐姿が
とても印象に残っていますが、今回は妖術使いの仁木弾正(にっきだんじょう)が袴姿で
悠然と空を歩いてゆくという宙乗り。
本当に空中を「悠然と歩いていく」という表現がぴったりで、吊られながらもぴんと背筋をのばし、
長袴(ながばかま)の裾も、畳の上でちゃんと捌いて歩いているかのように、
空中でだらーんと垂れたりしないように、きっちり水平になるように背後で吊られているの。
あとね!
歴代「SHOCK」で言うところの「くじら」、あるいは「大蛇」に匹敵するような
「大ねずみ」も出現してましたよ! 目が赤く光って毒液みたいのしゅーしゅー吐いて、会場大喜び。
伝統芸能あなどりがたし。本当に面白い。
そして、これからの海老蔵丈もますます楽しみです。
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