せらび
c'est la vie
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みぃ


2006年04月16日(日) 南の島へ 前編

大学時代の友人の結婚式の為に、南国の島へ出掛けて来た。

というのも、ワタシは現在諸事情により日本に帰り難い状態にあるので、来月中旬に東京で予定されている「披露宴」というものに出席が困難である。ならば「国内」である某島ならば渡航可能、という事で、新郎新婦とその家族のみの極々内輪の「式」にお邪魔する事に相成った次第である。

ワタシはこの島には「初上陸」だったので、本当なら長い休みを取ってあちらこちらへ出掛けて満喫したいところだったのだが、差し迫っている作業が中々終わらないので、それを抱えながらのヴァケーションとなってしまった。結局、日程を大幅に縮小せざるを得なかったのは、誠に残念である。

実はこの渡航は、ワタシ的には大変不都合な時期にかち合ってしまっていた。「差し迫っている作業」の締め切りが本当に迫っていて、これの目途が立たぬうちに「ヴァケーション」に出掛けるのは、なんとも心苦しい限りであった。

一瞬行くのを止そうかとも思ったのだが、ワタシは国を出る際、大学時代の仲良しグループの友人らに「結婚式には絶対に何をおいても帰って来るから、必ず呼べ」と言い渡してしまったので、皆そのつもりでいる。今更引っ込みが付かないので、止むを得ない。

しかしそれでも、今回は無理を押しても行っておいて良かった、とつくづく思うワタシである。



というのも、実は先方のダンナになる人というのが、何とも頼りにならない男だったからである。

こうはっきりと言っては難だが、でも本当の事だから致し方無い。

嫁さんであるワタシの友人は「一人娘」なので、ご両親の心配は如何程かと思う。ワタシは、まるで自分の娘が不甲斐無い男の元へ貰われて行くような心持ちで、ご両親と互いの心の内を明かし合い、慰め合ったので、本当に祈るような気持ちで、彼らの行く末が穏やかなものである事を願っている。

このお宅は元々会社経営をしていて、所謂「跡取り息子」というのがいない。だから一人娘であるワタシの友人は、「婿養子」となるべき将来のダンナを探して、これまで長らく独身生活を送って来た訳である。

何年か前に決まり掛けた縁談が、先方の不慮の事故であっけなく壊れてしまって以来、彼女も恋愛に関して少し臆病になっていたように思われたが、この度また良い人を見つけたと聞いて、今度こそ幸せになってくれるだろう、とワタシも安堵していた。



飛行機を乗り継いで、夜遅くにワタシはその島へ辿り着いた。

勝手に「常夏の島」だと思い込んでいたのだが、どうやらそんな事は無かった。流石に地元で着ていたキルトのジャケットは要らなかったが、それでも半袖では少し肌寒いくらいの気候であった。

滞在先に到着してから、彼女に電話をして、夜も遅いのを承知で呼び出す。まあ一杯やろう。

つたない土産物を持参して、彼女の滞在しているホテルのバアで飲む。


ちなみにこの土産物は、所謂「大人のおもちゃセット」と呼ばれる代物なのだが、亡き父親の仕事の都合で海外生活が長いというダンナなら、この程度の洒落は通じるだろう、という思惑でもって用意した、「夫婦生活円満大作戦セット」である。いつもの事ながら、ワタシは「汚れ役」である。

それに、何しろ一体どういう人柄なのだかさっぱり分からなかったのだから、それ以外に適した代物が思い当たらなかった、という言い訳もある。


翌日の朝食に呼ばれて、ワタシは漸く彼女のご両親と再会を遂げ、またこの未来のダンナともお初にお目に掛かる事になるのだが、このダンナという人は、二ホンジンに良くいる「ボク、シャイなんです」と自分で言ってしまうオトコノコであった。

つまり、それを言い訳にして、碌すっぽ口を聞かないで済ませてしまう、非常識な男であった。

それが聞けば、間も無く四十代の半ばに差し掛かろうという「オトコノコ」だったのだから、ワタシは思わず眉間にしわが寄ってしまう。


飯の後、彼女らの部屋でその日の計画を立てていると、彼は突然テラスへ出て行ってしまう。気付いたワタシが、「あら、彼は何か気に入らない事でもあったのかしら?」と聞くと、彼女は「人見知りするのよね、良い年して」と言う。

朝食時にも殆ど口を利かないので、どうしたのかと思っていたけれど、どうやら自分からあれやこれやと気を回すような事は出来ない性質の人間らしい。

更に、「これはパパ以外の人は皆知っているけど、怒らせるといけないから内密に」と念を押して彼女が言うのには、どうやら彼、現在のところ「失業中」だそうである。

以前の職場で色々と揉め事があったらしいのだが、それにしたってもういい年なのだから、「後釜」の世話はちゃんとしてから喧嘩するだろう、普通。

それから直に仕事が見つかるだろうと高を括っていたのに、気付いたらもう数ヶ月経ってしまっているそうである。だから今は、一日中家に居るのだそうである。

ちなみに「家」というのは、母上と同居中の「実家」の事である。四十男がママと同居だってよ。


仕方が無いので、一通りワタシと彼女とで計画を立て、それからテラスで寝転んでいるダンナに「このようにしようと思いますけど」と言うと、「ああ、ボクはプールで日焼けしてますので、お構い無く」などと言う。

お構い無く?一人別行動かいな。それじゃ、何しにこんな島くんだりまで家族揃ってやって来たのか、分からないじゃないの。

しかも無職の癖に、就職面接に「日焼け真っ黒」で行ったら、貰える仕事も貰えないのでは?


一寸面食らったものの、致し方無いので、そのままその日は彼女とそのご両親とで出掛ける事にする。



彼らしいエピソードとしては、この日の夕方に起こったひとつの「あわや失踪!?事件」がある。

花嫁とその母とワタシの三人で、ネイルサロンを予約していた。ちなみにこれは、ワタシにとって初めてのネイルサロンである。「初めてづくし」の、今回の旅である。

「四時にネイルの予約をして、六時過ぎには終わるだろうから、七時にディナーの予約をしましょう。だから六時過ぎには部屋に戻っていてね。」

と言ったのに、彼は部屋にいなかったのである。書置きも何も無く、忽然といなかったのである。

ワタシはネイル後、ホテルのロビーで待っている事にして、嫁さんとお母様がそれぞれ部屋へ引き上げそれぞれの配偶者を連れて六時半に降りて来るのを待つ事にしていた。

そこへ、嫁さんがあたふたと小走りに出て来るのが見えた。しかし手を振ったと思ったら最後、姿が見えなくなってしまい、おやと思っているとまた姿が見える。ダンナを探して、ホテル内の彼方此方の店を覗いていたのである。

彼を探しながら一緒に部屋へ戻って、彼女の両親の部屋へ電話をする。「そういう訳で彼がいないから、六時半の待ち合わせはキャンセル」と告げて、暫く様子を見る事にする。

もうそろそろディナーの予定の七時になろうかという頃、思いついて、ホテルのフロントに何かメッセージが来ていないかと訪ねる電話をしてみる。「いえ、何が起こったかは分からないんですけど、念の為」と言い訳をしながら、彼らの手も煩わせる。

そうこうしているうち、彼がひょっこり帰って来る。手には買い物袋を抱えている。

一体何処行ってたの!?

驚いた彼女とワタシが問うのに、「買い物」と当たり前のような返事が返って来る。

要するに、彼だけ「ディナーは七時半」と思い込んでいて、そのつもりで店の予約も取った、と言うのである。

ワタシが更に呆れたのは、他人にこれだけ心配を掛けて置きながら、後にお義父さんとお義母さんに会っても一言も詫びる事をせず、堪り兼ねたお義父さんが冗談を装って「何処行ってたんだよ」と詰め寄るのにも、「え、あぁ買い物」と笑いながら答えた様子である。


あとで嫁さんとお母さんとワタシの間で、「まぁとりあえず見つかって良かったね」「ちょっとヒヤッとしましたけどねぇ」「(三者、真顔で頷く)」という会話があったのは、裏話である。



夕食で再び一緒になっても、彼は相変わらず口を利かない。

彼女が食べ物を選り分けて取ってやっているのを見ながら、それをワタシは「まあなんてラブラブなの」などとは勿論思わず、これは飛んだ「紺屋の白袴」だなと不安になる。


つづく。


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