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『平家物語 あらすじで楽しむ源平の戦い』
2006年04月14日(金)

告白します。私は「平家物語」を通読したことがありません。でもこの中公新書『平家物語 あらすじで楽しむ源平の戦い』(板坂耀子 著)を読んで、通読したくなりました。

「あらすじで・・・」とあると、1昨年あたりに出た、高校の校長先生が書いたしょーもないあらすじ本を思い出して、げんなりしますが、これはそういうゴミ本とは違います。「あらすじで・・・」と副題がついたのは、著者の遠慮がちな気持ちの表れだろうと想像します。

ハイライトを追うから「あらすじ」なのでしょうが、それぞれの場面や人物に対する著者の入れ込みが感じられて面白いです。研究者はとかく対象に対して公平であろうとするあまり、個人的感懐を隠して淡々と解説をすすめがちです。結果、辞書の項目のような解説が仕上がり、全然「食欲」をそそることはできません。

この本については、「そうか、この人がこんなに一生懸命になるのだから、平家は面白いに違いない」と信じてしまう程度に「食欲」がそそられます。大学の授業のほか公開講座などでも「平家」を扱った経験がおありのようですから、馴れた筆致で話が運ばれます。

作品の世界観とか執筆の姿勢などについては、随所で言及されるのですが、言及に留まって展開はされないので、この点は中途半端な叙述だといわねばなりません。もっと聞きたいです。でも、だからこそ、原作で確かめてみようという気になるのも確かです。

第1章は原作を全然読んでいなくてもある程度は楽しめます。第2章は読んでいないと少しつまらないかも。また時々、客観的には全然関係のない西洋文学や児童文学、マンガなどが引き合いに出されます。著者の頭の中ではそれらが渾然と相まって「平家」の魅力を引き立てるのだろうと推察しますが、突然、塗りのお重からグリコのおまけが出てきたような読み心地がして、私はあまり感心できません。あらずもがな、です。著者の素顔が感じられる点はいいのですが、素顔は別に知らなくてもいいのです。

タイトルだけでバカにしちゃいけません。私は「平家」の中では、直実×敦盛が好きです。忠度の「にっくいヤツかな、味方よと云わば云わせよかし」の台詞もかっこいいです。

・・・最初に通読したくなった、と書きましたが、でもやっぱり心のどこかで、「平家って通読するような作品かなあ」とも思っています。断片、断片が読まれつがれて愛されることで今まで生き続けたのではないか、と。



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