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『虎屋 和菓子と歩んだ五百年』
2006年04月07日(金)

和菓子好きです。虎屋の羊羹好きです。なんのかの言ってもやっぱり虎屋だと思うことがよくあります。

この新書は虎屋好きには読んでいてとても楽しいものでした。虎屋の諸記録を紐解きながら、社長さんがいろいろ語るというスタイルで仕上がっているのですが、御所御用、皇室御用達の店なんて、一私企業というよりは、やっぱり日本の文化でしょう、と思います。虎屋の記録を見ないとわからないしきたりもたくさんありそうです。

我々庶民には内緒で、皇室のためにいろんな特注のお菓子があるんですねえ・・・羨ましいというより、宮廷文化が今もこういう形で密かに生き延びているんだなあと感心しました。某内親王さんの大学卒業茶会に出た押し菓子も虎屋が納めていたんですね。大膳所でこしらえたのかと思っていました。(出席した方から一個だけ分けていただきました。)

和菓子にはエレガンスがあると思います。

四季を反映し、歌の文化と響きあう何か。歌じゃなくてお茶でしょう、茶の湯でしょう、という声もありそうですが、tea ceremonyを可能にしたものは歌によってつむがれてきた文化ではないでしょうか。

和菓子の銘に比べると、洋菓子は即物的な命名でつまらないです。中華菓子がまだまし。もちろん実質おいしければ名前は二の次ですが。

そういえば、うちの男どもはつい先日まで「夜の梅」がなぜ「夜の梅」なのか知らないままぱくついておりました。私は今日この本を読んで、なぜ「空の旅」が「空の旅」なのかを知りました。ずっと気になっていたので、なるほどね、と。

ゴルフ最中のホールインワンが大正末年に出来たというのも驚きでした。キッチュな感じさえして、あれも好きなんですが、キッチュじゃなくて、岩崎小弥太夫人の考案だとは、なんだか日本近代のセレブの暮らしを垣間見るようです。

ひたすら伝統墨守に走って、過去によりかかるのではなく、得意客の求めに応じていく、という点からは、時代と共に新たな伝統を創出する文化拠点という印象を受けます。そこまでいうと、ひいきの引き倒しでしょうか。

甘党じゃない人には何にも面白くない話かな。虎屋ファンには是非ご一読を勧めます。ただただ楽しく、読後には羊羹の一切れでも欲しくなること請け合い。



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