19世紀オーストリアの小説家シュティフターの長編。 ちくま文庫上下2巻を何気なく手にとって、レジで「お、高っ!」と思った。オペラの3万は出せるが、小説で3千円払うのは不当な気がする・・・が、この『晩夏』については、全然不当ではなかった。(上下で¥2600) どこがそんなに感動させるほどの小説なのかはよくわからない。けど、感動した。(あ、小泉ポチみたいだ、ボキャ貧!) 最初から最後まで事件らしい事件は何もおきない。生活に困らない人の生真面目にして優雅な日々、それを彩る自然。相手への尊敬にもとづく穏やかな愛。その中に育つ恋愛。自然も美しいが、愛に結ばれた人々も同様に美しく、さらに、自然を愛する人たちが生み出す芸術、工芸、園芸・・・み〜んな上等。 こんなに美しいものだけ、日の当たるものばかり寄せてよく長編が成立するものだ。読み始めてまもなく、これはドイツのエコロジー思想みたいな話だろうと思った。それからまたしばらく読んで、ゲルマン的自然認識ってあくまでも理詰めなのね、でもこれって日本の「風雅」ってのと同じことじゃん、と芭蕉先生のことなんかも思い出す。日本人は、情緒、さもなければ「日本人」であることで、何もかもぶっとばして、自然とシンクロしがち。 そのあとは人間形成物語か、と思ったり、とにかく多面的な様相を呈する長編。頑張って一言で乱暴に言い切ってしまうなら、教養小説であり、二組の恋愛小説。通俗性ぎりぎりの綱渡りの気味もあるけれど、通俗的にならないのが名作のゆえんか。(だけど、解説を見ると、両極端の評価があるそうな。私も20代でこれを読んだら、クズ呼ばわりしたかも。ニーチェやマンが愛読したんだってよ。) ドイツの教会の木彫などドイツへ行くことがあったら、しみじみ見てみたいものだ。
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