書泉シランデの日記

書泉シランデ【MAIL

My追加

『かずきめ』
2005年02月25日(金)

『かずきめ』  李良枝

今更『かずきめ』なんて読むなよ、といわれそう。李良枝は大昔に『由熙』を読んだきり、読んだことのなかった作家。といっても、しっかりした話だな、という印象だけで、内容は忘れた。この頃なんでも忘れる。

この『かずきめ』には表題作の「かずきめ」「ナビ・タリョン」が入っている。共に秀作だと思う。自己喪失感のような感覚、この世のどこにも属していないような、空中を浮遊しているような感じがとてもよく表現されている。ただ、「かずきめ」では形の上だけの主人公景子がちょっと物足りない。だから、どちらが、といわれれば、断然「ナビ・タリョン」がいい。脇役の存在感がある(「かずきめ」と対照的か)。それに主人公が自分を取り戻す過程の描写が見事。実在の世界と感覚の世界とのバランスが小説ならではです。

李良枝の早世は残念なことだ。在日の身体感覚(といっても想像するだけだが)をこれほど見事に言語化できる人はそうはいないだろう。それって絶対小説の仕事なんだよね。

★★★



李良枝が生きていたら、今の韓流ブームをどう見るのだろう?集中豪雨的にいろんな俳優が来日するけれど、まさに消費されるだけの韓国文化(という名前で呼んでいいかどうか)。それじゃいけない、と思う人が海峡の向こう側にもこちら側にもいるはずなんだけれどねえ。




BACK   NEXT
目次ページ