老犬のために獣医さんの往診を乞う。 特に何かあったわけではないが、とにかく興奮すると倒れるので、獣医さんのところまで連れて行く自信がない、というのが第一の理由。そして、坂道を下っていることは間違いがないのだから、何かあってからあわてて診断してもらうよりは、多少のご宣託が頂戴できるであろう、というのが第二の理由。 獣医さん到来の気配にはまず吠える。 獣医さんご入室でテーブルの下に隠れるけれども、そもそも獣医になるくらいの人は犬寄せホルモンが分泌しているから、獣医さんがちょっと声をかけると出てくる。尻尾を振って愛想満点。 「元気そうじゃない?」 「ま、そうなんですけれどね、興奮するとすぐ失神するんで・・・」といい終わらないうちに、ばたっ! 当方慣れたもので、そばのバスタオルを即、股間にあてがう。 獣医さん聴診器。ひっくり返ってぐるぐるしている目玉を、またひっくり返さんばかりにしてチェック。 そうこうしているうちに意識覚醒。 「利尿剤、毎日飲ませましょう。効きが悪ければ、もっと強い薬にしましょう。」 ・・・御宣託はこれにて終了。利尿剤で肺にたまった水を排泄させようという手である。対症療法はこれしかないらしい。 意識を取り戻した老犬は、再度テーブルの下でぶるぶる震えている。 「具合悪そうだから、早く引き上げますね」 獣医さんお帰りである。 具合悪そうで帰る医者ってのも、なんだかなあ・・・。わかりますけれどね、獣医さんがいるから、犬も落ち着かないってことでしょ。だけどさあ、具合悪いからってここでまっすぐ帰るのかねえ? 相変わらず芸のない獣医さんでありました。この飾り気のなさ、というか、営業の出来なさが気に入っているのです。気楽に口をきいてもらうまで2年近くかかりましたもんね。
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