Mako Hakkinenn's Voice
by Mako Hakkinenn



 チック・コリア不朽の名作
2006年04月09日(日)

 さあ皆さん!レコードプレイヤー導入に伴って70年代の名盤ジャズLPをたくさんいただいたので、今回から不定期で、昨日お伝えした「CafeM−NEST」のお薦めLPのレビューをお送りしていこうと思っています。その記念すべき第1回目の今日皆さんにご紹介するLPは、こちらです!


チック・コリア・クインテット「return to forever」
(1972)


 まずはチック・コリアの基本情報から。チック・コリア(本名:アルマンド・アンソニー・コリア)は1941年6月12日にアメリカ・マサチューセッツ州チェルシーにて生まれ、4歳からピアノを習い始めます。高校を卒業後、ニューヨークにあるジュリアード音楽院に進学し、その後20歳前半からかのジャズ界の巨匠マイルス・デイヴィスなどと共演し、ミュージシャンとしてのキャリアを深めていきます。

 1971年にギタリストのアル・ディメオラ、ベーシストのスタンリー・クラークらとクロス・オーバー・ジャズのバンド、リターン・トゥ・フォーエヴァーを立ち上げます。革新的な音楽性と卓越した演奏技術に裏打ちされたこのバンドは数々の珠玉の名曲たちを生み出し、トップアーティストとしての地位を確立します。中でも「Light As A Feather」に収録されている「Spain」は現在でも他の演奏家にプレイされ続ける、ジャズの、また彼自身の代表曲です。(ウィキペディアより抜粋)

 で、この「リターン・トゥ・フォーエヴァー」というアルバムは、1972年度ジャズディスク大賞の金賞を受賞した不朽の名盤と言われ、「リターン・トゥ・フォーエヴァー」「クリスタル・サイレンス」「ホワット・ゲイム・シャル・ウィ・フレイ・トゥデイ」「サムタイム・アゴー・ラ・フィエスタ」の4曲を収録しています。バンド構成はチック・コリア(エレクトリックピアノ)、フローラ・ピュリム(ヴォーカル、パーカッション)、ジョー・ファレル(フルート、ソプラノサックス)、スタン・クラーラ(エレクトリックベース、ウッドベース)、アイアトー・モレイラ(ドラムス、パーカッション)の5人。

 チック・コリアは僕も90年代以降のアルバムはCDで持っていますが、はっきり言ってこの頃のチック・コリアの音楽はまったく聴いたことがなく、今回初めて聴きます。その上で、余計な先入観を一切排除して僕が耳にしたままの率直な感想を書いていくことにします。

 まず1曲目の「リターン・トゥ・フォーエヴァー」は、静かで、それでいて少し不安な雰囲気を連想させるサスペンスチックなエレクトリックピアノで始まり、そこに透明感のあるフローラ・ピュリムの美しいソプラノが重なり、さらにジョー・ファレルのフルートがユニゾンで重なっていきます。
 その後アイアトー・モレイラのミドルテンポのドラムが始まり、さらにスタン・クラーラのウッドベースも加わり、チック・コリアのエレクトリックピアノの伴奏に乗せ、ピュリムの美声とファレルのフルートの音色が主旋律をなぞっていきます。
 全体的な作りとして、ピュリムの美しいハミングの響きがファレルのフルートと共にメインでフィーチャーされ、エレピ、ドラム、そしてベースは抑え気味で展開していくのですが、やはりその途中で入り込んでくるチック・コリアの魔法の両手から生み出される、滑らかに流れるようなピアノソロは、およそ人間が引いているとは思えないほどの速さで奏でられ、そのテクニックの高さに驚かされます。

 2曲目の「クリスタル・サイレンス」は一転して非常にスローペースで、静かでゆったりとしたピアノのイントロに、ファレルのソプラノサックスが高らかにシブい主旋律を奏でていきます。そのピアノとソプラノサックスだけの中に、時折グラスが交わるような美しいクリスタル音がさりげなく鳴り響き、幻想的な世界を演出しています。太陽できらびやかに光り輝くさざ波が美しい真夏の海岸を見下ろす、涼しげな地中海の白い世界を連想します。

 3曲目の「ホワット・ゲイム・シャル・ウィ・フレイ・トゥデイ」はこれまた一転して、ポップなボサノヴァ調の軽快なリズムに乗せ、ピュリムの楽しげでそれでいて優しい歌声が魅力的な曲です。チック・コリアのエレピが全体を通してバックを包んでいますが、この曲ではチック・コリアは脇役に徹していて、むしろピュリムの歌声と輪唱するかのようなファレルのフルートのメロディがとても可愛らしいです。よく晴れた日曜の昼下がりに買い物に出かけ、店のショーウィンドウに飾られた服やバッグを眺めているような、わくわくした気持ちを連想しますね。

 ここでレコード盤をひっくり返して、B面4曲目の「サムタイム・アゴー・ラ・フィエスタ」。B面はこの1曲だけが最後まで続きます。題名の中の「ラ・フィエスタ」は“お祭り”という意味ですが、イントロは非常に静かなエレピで始まり、パーカッションが効果的に不規則に鳴り響きます。そのうちクラーラのウッドベースもソロで加わってくるのですが、どちらかというとアドリブのようなグルーヴ感があり、ポスト・モダンな無調音楽を連想します。ウッドベースはやがてスペインのフラメンコに似た旋律に変わり、しばらくの間ウッドベースのソロが続きます。

 いわゆるリオのカーニバルや日本のねぶた祭りなどのような華やかで賑やかなお祭りと言うよりは、もっとしめやかで厳かな、崇高で原始的なお祭りを連想するような曲ですね。ただ、これこそがチック・コリアの真骨頂であるといえる独特の世界観を持つアドリブ感が、実に心地よく頭の中に浸透してきて、その不規則で不安定な旋律が精神を速やかに現実世界から引き離していくような、不思議なトリップ感を味わうことができます。

 その後曲は規則正しいベースラインとドラムのボサノヴァのリズムに牽引され、調もメジャーコードに変化し、爽やかなピュリムの歌声に変わります。ヴォーカルにほどよくかかるフルートの音色もすがすがしく、スペインの小さな村の広場で、太陽と青空の下、美しい女性が軽快なステップを踏みながら軽やかに踊る姿を連想します。
 最後はもろフラメンコ調のカスタネットがカタカタカタと打ち鳴らされ、テンポも一気に上がりエレピ、ベース、ドラム、そしてサックスが絡み合い、一気にクライマックスへと向かっていきます。アルバムのエンディングに向けて最後の盛り上がりを見せ、曲はハイテンポで展開され、サックスが大取のアドリブを激しく奏で、チック・コリアのエレピと見事な掛け合いを見せながら終わっていきます。

 アルバム全体を通してみると、随所にチック・コリアの天才的なテクニックが垣間見られて、まさに傑作といえるアルバムだと思います。テンポのアップダウンはあるものの、バンドの構成がシンプルだけに全体的に静かな音色なので、イージーリスニングとしても最適だと思います。ただ、イージーリスニングにはあまりにももったいないほどハイレベルで最高級の演奏が最初から最後まで続くので、できればじっくりとチック・コリアのテクニックに酔いしれて欲しいですね。
 一応ジャズにカテゴライズされているアルバムではありますが、純粋なジャズと言うよりはジャズとボサノヴァの融合と言った方が正しいかもしれません。夜に聴くよりは、昼間聴いた方が心地いいような気もします。夏のよく晴れた日に聴くと、清々しい清涼感を味わえること請け合いです。

 チック・コリア・クインテット「return to forever」でした。



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