Mako Hakkinenn's Voice
by Mako Hakkinenn



 トヨタ、マイク・ガスコインを更迭!
2006年04月05日(水)

 F1から驚くべきニュースが入ってきました。何とトヨタのマシンデザインを担当したテクニカルディレクター、マイク・ガスコインが、チーム不振の責任を問われ更迭されたそうです。

 マイク・ガスコインは、1989年にマクラーレンの空力スペシャリストとしてF1界にデビューし、2年間従事しました。91年からシャシー技術者としてティレルに加入し、同年ザウバーに移籍し空力チーフとして開発を行います。94年には副テクニカルディレクターとしてティレルへ復帰し、98年にチームが崩壊するまで活躍しました。
 98年にジョーダンチームへテクニカルディレクターとして移籍し、99年は2勝、6回の表彰台獲得によってコンストラクターズ選手権3位に入るという、ジョーダンチームにとって最も成功を収めたシーズンを共にしました。2001年にベネトン(現ルノー)にテクニカルディレクターとして加わり、2003年にはルノーと名を変えた英仏合同チームをハンガリーグランプリでデビューウィンへと導きます。
 その後マイク・ガスコインは2003年12月から、トヨタのシャシー部門テクニカルディレクターとして新たなキャリアを始めることとなったのでした。

 マイク・ガスコインの名を一気に高めたのは、いずれも中堅チームだったジョーダン時代(1999〜2000)とルノー時代(2001〜2003)で、それぞれの時代で勝てるマシンを手がけ、その成功によって今やエイドリアン・ニューウェイ(マクラーレン)やジョン・バーナード(フェラーリ)と並ぶ名デザイナーとして知られ、その実力を買われて2003年の12月からトヨタに引き抜かれることとなりました。しかし、その時点ですでに2004年シーズンのマシン開発は前任のデザイナーによって進められており、実質的に彼のデザインが反映されたトヨタのマシンは、昨年型のTF105からでした。

 トヨタは2002年に、世界の自動車業界の巨人として鳴り物入りでF1にデビューしましたが、その初年度に獲得したポイントはわずか2ポイント、決勝最高位もミカ・サロが2回記録した6位と散々たるものでした。翌2003年には合計16ポイントを獲得するも予選最高位は5位にとどまり、2004年は5ポイントしか獲得できず予選最高位も前年と同じ5位でした。

 しかし、2005年シーズン、マイク・ガスコインが本格的にマシン開発に携わったTF105でシーズンに臨んだトヨタの成績は急上昇し、シーズン合計獲得ポイントも88ポイントと大幅にアップ。さらに第9戦アメリカグランプリではヤルノ・トゥルーリが初のポールポジションを獲得し、決勝でもトゥルーリが2度の2位表彰台と3位表彰台1回、ラルフ・シューマッハも3位表彰台に2回登るなどの活躍を見せ、コンストラクターズランキング4位と飛躍する年となりました。

 ところが、そうした明らかにチームの躍進に大きな影響を与えた立役者マイク・ガスコインを、トヨタは今シーズンまだ開幕してたった3戦の結果が思わしくないだけで、その責任を背負わせて更迭してしまったのです。これは驚くべきことですね。とても信じられません。
 トヨタはF1参戦5年目に突入した今シーズン「開幕3戦で初勝利を」と意気込んでいましたが、結局第3戦のオーストラリアでラルフ・シューマッハが3位表彰台を獲得したのがやっとで、3戦が終了した時点で獲得したポイントはわずか7ポイントにとどまっています。しかし、だからといってたった3戦が終わったこの時期にガスコインを更迭してしまうというのは、あまりにも時期尚早なのではないかと思わずにはいられません。
 ルノー時代に大きな実績を持つガスコインは、強いリーダーシップでトヨタ内部の体制を大改造しただけに、TF105、TF106と2年続けてトヨタに凡作との評価を下されたいまの状況では、高額サラリー(推定年棒800万ドル:約9億4千万円)を取ると言われるだけにチームの対応は厳しかったようですね。
 ブリヂストンタイヤへのスイッチについても、ガスコインはマシンデザイナーの立場からミシュランに固執して最後まで強く反対の姿勢を示していたようですが、トヨタ本社主導で決定されたと言われています。

 しかし、今シーズンのここ3戦の不調は、ガスコインのマシン設計と言うよりは、ガスコインが最後まで反対しトヨタ本社が強引に決定したブリヂストンタイヤとのマッチングに問題があるのは明らかなんですよね。結局のところ、そうしたガスコインとトヨタ本社との考え方の相違が、両者の確執を生み出した結果なのでしょう。まったくもって今回のガスコイン更迭は愚かな決定です。

 個人的には、トヨタの傲慢さが露骨に現れた騒動だったと思います。トヨタと言えば過去にアメリカのインディシリーズでもエンジン規制を独断で押し進めて結果的にシリーズ分裂を招いた経緯がありますが、その傲慢体質は未だに治っていないようです。そう考えると、富士スピードウェイを買収して日本グランプリを鈴鹿から奪い取ってしまったというのも、傲慢さが現れているような気がします。
 しかし、そんな「世界の巨人」と言われているトヨタも、F1で5シーズン目を迎えて未だに勝利がないことに、相当焦っているようですね。ガスコインをシーズン早々に更迭した以上、結果を出さなければチーム首脳陣もその責を問われることになりそうです。

 まあ、マイク・ガスコインはまだ43歳ですから、トヨタを離脱してもF1界で再就職に困ることはないでしょう。彼は才能のある人物ですから、トヨタのような大企業ではなく、もっとクリエイティブで理解のあるチームの方が、その才能を遺憾なく発揮できるはずです。

 彼に高額なサラリーを支払えるのかは、また別の話ですが……。



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