HARUKI’s angry diary
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2005年01月21日(金) クマとの馴れ初め その4

どんな仕事でも同じだとは思うが、仕事というものは精神的にも体力的にもかなりタフでないと出来ない。
特にHARUKIのやっている仕事は、生身の人間を相手にしている上に、人間関係の具合で仕事の成果が上がったり、下がったりするのだから、かなりキツイ。そんな仕事を長年やっているのだからHARUKIの心臓にもいつしか毛がはえてきていた(笑)。
ちなみに今は、心臓は鋼鉄かもしれないと思ったりする(爆)。

さらに、若い頃、数年間やった別の仕事というのも、これまた人間のやる仕事とは思えないほど精神的には過酷な仕事だった。
あの職業に長年ついている人は、すでに人間ではなく妖怪ではないかと思ったりすることも。
なにしろいまや鋼鉄の心臓のHARUKIでも、あの仕事は二度とやりたくないと思うのだから。


その日は、HARUKIもクマも仕事が早く終わったので外食をした。
食事の後、クマがポソッと言った。
「オレ、もうつらくて、つらくて…」
そりゃ、HARUKIだってつらいわ。
「付き合うのをもうやめようかと思う」

え?また、その話かい!と一瞬思ったのだが、クマは家を出た後だったし、それなりに充実した日々を二人で過ごしていたのでHARUKIにはちょっと疑問だった。

HARUKIが「やっぱり離婚するしかないよね、お互い」と言うと、クマが「違うんだよ」と答えた。
えぇぇぇぇ?じゃあ、なに?

クマがだんまりを決め込んだので、とりあえずクマの部屋に移動する事に。

長ーーーーーーーーーーーーーーい沈黙の後、HARUKIはこのままではいかん!と思い話の口火を切った。

HARUKI「言ってくれないとわかんないよ」
クマ「………」
HARUKI「思っていることは、ちゃんと口に出して話さないと相手には伝わらないんだよ」
クマ「………」
HARUKI「ここで私が引き下がってしまったら、昔の二の舞になっちゃうから。また訳がわからないまま別れて、この先、一生引きずるのは、私イヤだからね!」
クマは、それでも黙り込んでいた。こうなってくると根競べ。

HARUKI「もう、昔みたいなあんな思いをするのは、私イヤだから。もし、あなたの私に対する気持ちが変わったっていうのなら、何も言わないで別れるけど」
ここまで来ると殆ど脅迫の域に入っているような気もするが、HARUKIが仕事で培ったノウハウ的には(笑)、とにかく根気よく相手と話をしないと何も解決しないということはよーーーーくわかっていた。

HARUKIは、何度も「昔の二の舞はイヤだから」と繰り返した。
クマは観念したように、ボソボソ話し始めた。

「HARUKIちゃんといると、オレ、男としてがんばらないといけない、っていっつも思っちゃうんだよ。でも、オレはそんなに強くないから、それがつらくて、つらくて…」

あ、なるほど〜。そういうことか。←いきなり仕事モードかい!(笑)

HARUKIはクマを前からまるでお母さんが子供にするように、抱きしめた。

「別にがんばらなくていいじゃない。ありのままのあなたでいれば。それで私があなたを嫌いになることは絶対にないから。私はあなたが思うほど弱い人間じゃない」

HARUKIがそう言うと、クマは声をあげて泣き始めた。

それから2時間45分。←絶対に忘れないし(笑)

クマは泣き続けた。

最初のうちは、子供にするように「よしよし」と背中をたたいていたHARUKIだったが、さすがに1時間を越えると面倒くさくなってくる(笑)。←おいおい

とにかくクマの気が済むまで泣かせてあげよう、と決意したHARUKIは、しっかり抱きしめてたまま、クマが泣き止むのを待っていた。

今思うと、クマのこんな心の葛藤を理解し、引き受けることが出来たのはHARUKIが精神的に成長していたからだと思う。もし、若い頃のHARUKIだったら、おそらくクマの言ったことにオロオロし、二人の関係は終わっていただろう。

神様が、二人の再会をここまでひっぱったのには、理由があったんだなぁとこのときHARUKIはつくづく思ったのだ。

この出来事のあと、二人の気持ちは非常に前向きになった。
クマは、心の底をさらけ出した訳だし、HARUKIはそんなクマを引き受けようと決めたのだから。

それからクマは「そーか、HARUKIちゃんを描けばいいんだ」と言って、HARUKIをモデルにして、絵を描くことを始めた。

HARUKIもクマも美術系の専攻だったので、大学を卒業するときには卒業制作という名目で大きな作品を作る。
クマは、古めかしい電車の座席に座っている人々を彼独特のタッチで100号のキャンバスに描いた。その画面の中にひとりだけ白い仮面をつけた女性が象徴的に描かれていたのをHARUKIは明確に覚えている。
これはHARUKIの想像ではあるが、おそらくあれはHARUKIをイメージしていたのだろう。でもクマはHARUKIを描かなかった。
いや、きっと描けなかったのだ。

それがこの出来事を境に、おそらくクマの中で何かが開放されたのではないかと思う。

いざ本格的にヌードのモデルをやってみると、これはこれで結構つらい。
着衣ならまだ服で隠れている部分があるのでなんとかなるのだが、全身をまったく動かさずに長時間いるのは、かなり大変なのだ。

クマは言った。
「セザンヌがモデルをやっていた奥さんに言った言葉知ってる?」
HARUKI「知らない」
クマ「リンゴは動かない」

ちなみに、当時クマが描いた絵はHARUKIの寝顔が多い。理由はひとつ。
HARUKIが疲れてすぐ眠ってしまうから。←おーい!

こんな楽しい時間を持ちながら、二人は離婚に向けて動き出した。

最初の離婚で結婚というものに対して非常に懐疑的になっていたHARUKIは、二度目の結婚については、出来れば入籍はしたくなかった。
もっと言うと、同棲中に、お金以外に価値観を見出せない夫に、HARUKIとしては実は違和感を覚えていたのだ。

価値観が正反対で、共通の趣味もまったくもてない男と結婚して本当に大丈夫なんだろうか?とずーっと考えていた。

だが、勤務先の関係で同棲が1年を越えたときに「さすがに正式にしておかないとまずいんだよ」と彼に言われ、結婚したのだった。

だから、HARUKIの離婚話は簡単に進んだ。お金の話を除いては。

早春の金曜日の夜。
「明日は、船を出して海釣りに行く」とうれしそうに話す夫にHARUKIは言った。
「離婚して欲しい」
と。
すると夫は、なんの躊躇もなく答えた。
「いいよ」

同棲期間を含めて約5年、一緒に暮らした男はいとも簡単に答えたのだ。
へ?いいの?理由も聞かないの?

もちろん理由を聞かれたところで「愛する男と暮らしたいから」などと本当のことを言うほど、HARUKIだっておろかではない。それらしい理由を用意していたのだが、それも言わずに済んでしまった。

ちょっと拍子抜けはしたが、「なんて男らしいヤツだろう」とそのときHARUKIは思った。が、これは大間違いということが後でよーーーーくわかった。

彼は、HARUKIに対して愛情がなかったのだ。

離婚届は、翌月曜日には役所に出すことが出来た。←はやっ
だが、それからが問題だった。

当時HARUKIは、夫と共同名義で建てた家に住んでいた。
持分は半分ずつ。

その家をどーするか?でもめたのだ。

夫は言った。
「お金の話が片付くまで、オレは家を出ないから」

それから、もめにもめた。
HARUKIはもう家なんてどーでもいいから縁が切りたいのに、ヤツは絶対に出て行かない。
「だったら私がとにかく家を出るから」とHARUKIが言うと「話し合いがつくまでは出て行かせない」と彼は、結婚しているときからは想像できないほど、HARUKIの行動を干渉した。

HARUKIの帰りの時間が予定より遅くなると道路に出てタバコを吸いながら待っていたり、言い合いの末HARUKIが玄関を出ようとすると、暴力こそふるわなかったが、ヤツは実力行使に出たりした。

本当に怖い日々だった。

家を売買する金額のことで無理難題をヤツはHARUKIに請求し続けた。何を根拠にそんな額がヤツの頭の中で算出されるのか、HARUKIにはまったくわからなかったが。
「HARUKIの持分を今の評価額で買ってくれればいいから」と言っても「それには応じられない」と言う。ヤツはどうもお金が欲しかったようだ。

最後は、もうヤクザと話しているような感じ。

もしかして、ヤツは離婚で儲けようとしてるのか?

それに気付いたとき、あぁ、これがこいつの本性なんだなぁ、とHARUKIは理解した。
そして思った。
離婚届だけは速攻で出しておいて本当に良かった、と。

確かにHARUKIが離婚を申し出たのだから、相手はそれなりの代償を求めてくるだろう。それはしょうがないと思う。でもそれにしたって限度があるだろうに。HARUKIはただのしがないサラリーマンなんだぞ。

それなりに好き合って暮らしていたと思っていた日々は一体なんだったんだろう。もしかしたら、そう思っていたのはHARUKIだけだったのではないか。

この時期、HARUKIはクマの前でよく泣いた。

一方、クマ。
離婚にあたってクマはすべてを妻に渡し、養育費をいくらいくら払うということなどを細かく妻と話し合っていた。

今の状況からは考えられないが(笑)順調に話し合いは進んでいた。まさに妻がそれで納得し、明日はハンコを押そうという夜、なんと!クマの本宅に泥棒が入ったのだ。←クマは泥棒に好かれるらしい(笑)

妻はパニック状態になり「家から男の人がいなくなるのは不安だから、やっぱり離婚はしたくない」と急に言い始めた。

それからの妻のかたくなさは、いまだにクマが離婚できない状況をみてもわかるのだが「離婚したくない」の一点張り。

その後、クマは離婚の話をしに行くたびに離婚届を書いて本宅に持って行っている。
数えたことはないけれど、もう20枚はゆうに越えているだろう(笑)。


半年かかって、ようやくHARUKIは、夫との話し合いに決着をつけた。
実に長かった。

最初の離婚のときもそうだったのだが、離婚を決めたときは実は、相手をひどく憎いとは思えない。だが、話し合いを進めていくとどんどん相手が憎くなっていく。
おそらく離婚という究極の事態に遭遇すると人間の本性が出てくるのだ。そして、相手に対する思いの真実も。
そして、それは「あぁ、やっぱり離婚を決めてよかった」と思える本性であり、真実なのだ。


10月のある日曜日。
荷物を持って、夫がやっと家を出て行った。

そして、その日の夜。
クマがHARUKIの家にやってきた。

それから今日までのクマとの暮らしは、まだまだ波乱万丈の揉め事だらけの日々。

でも、それはまた別の機会に。


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