a short piece

2004年08月27日(金) flapper【塚不二】

ふたりきり。
ほかには誰もいない。

邪まな気分いっぱいに満ちた指先で、首筋に触れると跳ねるように身体が揺れる。
絶対にこんな時、好き、なんて言わない不二。
いつもは子供みたいな顔を装って制服なんて着てる。
けれど一枚ずつ、開いていけばもう比例するように、そのままどんどんと惹き込まれて何も判らなくなる。

堕落していくままに唇をよせれば、もうけして逃げようとはしない。
ただ、積極的な唇には反比例して瞳だけがゆらゆらと揺れて定まらない。
どちらが本心なんだ。

乞われて消してしまった灯かり。
窓から射す、街灯の光に照らされて…。
暗闇に慣れた目に映る、深い茶色の瞳。
まるでそれだけが子供のように、幼く見せる。
shyに照れたように背ける横顔。
何かまるで俺が悪いことをしているみたいに感じて、つい手を止めてしまいそうになる。情が移りそうになる。
でも、それが君の合図。
もう言い訳も聞かない。
ただ、怪しく触れる肌の熱さだけ。
身体を分け合えば、ただ暑い胸が弾けるように跳ねた。
合わせた掌のままベッドに押さえてしまえば、やっぱり逃げるように足がぱたぱたとシーツを蹴る。
身体の奥から、爆ぜるような思いが噴出す。もう蜜が流れてる。
そのまま。
何も判らなくなってくれ。裸のまま何もかもみせて。
繰り返し、繰り返し。耳元で何度も囁くと押さえられないように全身が蠢く。
外の灯だけ。よく見えないままの白い肌。
ああもうこのまま、一緒に生まれ変わろう。
君が何かを言いかけて唇をかむ。
ああ。
声を出したくないならそれすら全部貰ってしまうから。
愛し合いたい。
ただ、熟れるままに俺より遥かに細い体を抱きしめる。
背中に感じる痛みすら感じる。
耐え難い痛みとか、熱さとか、苦しいとか。そんなに言わないでくれ。
もう何も押さえられなくなるから。
裂け目から溢れるような愛しさに全て忘れてしまいそうになる。

「あ…っ」

やっと得た悲鳴のような音色。

このまま、暑いまま夜も朝も。
抱きしめていよう。
嫌だといわれても離さない。
抱きしめあうのに、必要なものなんて何もない。
傍に君がいればもう何もいらない。


誰もいない夜。

父と母は得意先のパーティで沖縄。帰宅は明後日。
祖父は所属している武道倶楽部の慰安旅行で、帰宅はやはり明後日。

うちに来ないか?
そういったら不二はちっょと困った顔をしてやっぱり明後日の方向をぷいと見た。

ほら。
ほの暗い灯かりに浮かぶ、今の横顔と同じだ。

判ってたろう?

夜の明かり。


辺りには誰もいない。

誰もいない。

誰もいないから。
ふたりきり。

こうして。









end.


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