a short piece

2004年08月10日(火) UNO【塚不二】

台風一過。
良い感じの青空に久しぶりにの部活も休み。
まったくの休日だった。

めいっぱい楽しもうということで、部屋で出かける準備をしていたら、急にちょこっと姉が顔を出した。

「ね、周ちゃん、ちょっと時間ない?」
「…何するの?」

お、勘いいねぇ〜って、その顔みたら判るってば。
そんな姉はいつもの仕事用とはちょっと違うボルドーのスーツを着ている。デートにしては化粧にやる気ない感じかな。

「時間つぶしにUNOやってるんだけど頭数微妙でね♪少しだけ付き合って。ね?」
「いいけど…ホント少しだけだよ。英二と出かける約束してるからさ」
「OKOK!こっちも明け待ちなのよ〜急患なんだって」

急患ってことはナースの恵さん待ちかぁ…。
ぼんやり姉の友達の顔を思い出していたら、ぐいって、まだボタンも全部嵌めていないBLのシャツを捕まれて、そのまま一気に捕獲されてしまった。
連れ込まれた姉の部屋には昔から見慣れた友人たちが座っていて、例のカラフルなUNOカードを扇状に広げて、皆でwelcomeしてる。

「これからねーインターコンチネンタルスィートに泊まりに行くのよ〜♪」

見慣れた彼女達がきゃっ♪きゃっ♪いってる。以前ドラマでみた部屋がやっと、とれたらしい。

「レディースプランって安くっていーけど何で彼氏と一緒じゃ高くつくのかしら」
「ねーっ」

なんて言い合う中に僕だけぽつん…て、混じらされてUNO。

「周助くんは彼女いないの?」

くるかくるかと思っていたら案の定ふられて苦笑い。

「部活やってるから難しいかなー。一緒にいる時間がなかなか…ね」

reverseのgreenをだしながら話ごとひっくりかえす。
えーいきなり返さないでよー!って、だったら、話ふらないでよ。

『こんな風に贅沢な女の子につかまっちゃだめよー』って笑う綺麗なオトナの塊。そんなこと、心配しなくても大丈夫。こっちはもうとっくに身持ちも性格も硬くて、ちょっとエロい誰かにとっくにつかまっちゃってるんだから。
誰かなんて言えないけど…。
カラフルなカードをみているうちにあの顔がダブってくる。
あのとき…
ちょっと憮然とした、だけどいっぱいいっぱい照れた顔が思い出された。

・・・・・・・・・・・・
最上級生になって、最初の部活の日。

新一年生が山のように部室の中を右往左往していた。
どこで、どのタイミングで着替えていいのか判らず、部屋の隅に溜まって、もそもそしている。
3年目。
これでやっと誰に気兼ねもすることなく、ラケット振っちゃえ! と思っているだろう、たくさんのメンバーの中に当然のように僕もいた。
新しく部長になった手塚は、大石と一緒に部屋の奥に据えられた専用のミーティングデスクで部誌を書いてる。

「おーいしぃ、まだぁ?」

ガタガタいわせて椅子をひきづってくると、とっくに着替え終わっていた英二はどかっとデスクに肘をついた。

「悪いな、英二。後10分」

「えーびみょーな時間」

まあまあとパートナーに宥められ、ぶすぶす言いながら英二は、カバンの中からちょっと角の刷れた黒いboxを取り出した。
ブラックに赤・青・緑・黄色。カラフルなUNOカードを取り出して僕を手招く。

「しよ」
「えー2人でやっても楽しくないんじゃない?」
「いいじゃん」

ばらっと英二がカードをデスクに散らばすと、不意に手塚が手を止めた。
やたら難しい顔でUNOをみつめて、黙ったまま。
ちょっと五月蝿いぞ英二、って言われるかと思い、覚悟してみる。
すると、手塚はただじいっと広げられたカードをみていた。
そして、何かを確認したそうように、僕をみあげて、こういった。

「なんだ、それ」

は?
当然ながら、部室内全域に渡って奇妙な沈黙が流れた。

「UNO」

当たり前のように、英二がカードの面指差す。
すると、手塚はまったくもって真面目な手塚部長らしい顔のまま、こういった。

「…資生堂?」

しぃぃぃぃ〜ん、とした。
ああ、どうよ。英二がフリーズ中だよ。ほらほら。
まさか冗談?
って思っても、そりゃ手塚の顔みれば「違う。マジマジ」って判る。
手塚…。君って…君ってホントに…

「それはウーノ。綴りは同じだけどこっちはUNO」

そう僕が教えると、顔いっぱいに広がる ??????? の手塚に、もうもう僕は堪らず噴出してしまった。
同時に、部室中が意外な完璧部長の素顔にどっと沸く。
取り残されて、手塚はわからないまま、きょとんとしていた。

「な、なんだ、みんな知ってるのか??」

訳判らないまま、ちょっと恥ずかしいことだけはわかったらしい彼の、肩をぽんぽんと英二が叩く。

「テニスばっかしてるから、こんなになるんだよ。手塚。今度みっちり教えちゃるから覚悟しようねん」
「はい」

素直に手塚が頷くと、英二は満足げに頷いた。

・・・・・・・・

あのとき。

次の日は久しぶりにの部活も休みで、4人連れ立って僕の家に来たんだ。
やってしまえば手塚だもん。あっという間に一番強くなっちゃって、英二に可愛くないって文句言われてたけど…。
楽しい、そりゃ滅多にないcolorfulな思い出ですよ。ねえ?手塚。

最後の1枚を手に、僕は真っ青なカードを山の上に捨てた。

「UNO」

さ、時間だ。



end.


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