台風一過。 良い感じの青空に久しぶりにの部活も休み。 まったくの休日だった。
めいっぱい楽しもうということで、部屋で出かける準備をしていたら、急にちょこっと姉が顔を出した。
「ね、周ちゃん、ちょっと時間ない?」 「…何するの?」
お、勘いいねぇ〜って、その顔みたら判るってば。 そんな姉はいつもの仕事用とはちょっと違うボルドーのスーツを着ている。デートにしては化粧にやる気ない感じかな。
「時間つぶしにUNOやってるんだけど頭数微妙でね♪少しだけ付き合って。ね?」 「いいけど…ホント少しだけだよ。英二と出かける約束してるからさ」 「OKOK!こっちも明け待ちなのよ〜急患なんだって」
急患ってことはナースの恵さん待ちかぁ…。 ぼんやり姉の友達の顔を思い出していたら、ぐいって、まだボタンも全部嵌めていないBLのシャツを捕まれて、そのまま一気に捕獲されてしまった。 連れ込まれた姉の部屋には昔から見慣れた友人たちが座っていて、例のカラフルなUNOカードを扇状に広げて、皆でwelcomeしてる。
「これからねーインターコンチネンタルスィートに泊まりに行くのよ〜♪」
見慣れた彼女達がきゃっ♪きゃっ♪いってる。以前ドラマでみた部屋がやっと、とれたらしい。
「レディースプランって安くっていーけど何で彼氏と一緒じゃ高くつくのかしら」 「ねーっ」
なんて言い合う中に僕だけぽつん…て、混じらされてUNO。
「周助くんは彼女いないの?」
くるかくるかと思っていたら案の定ふられて苦笑い。
「部活やってるから難しいかなー。一緒にいる時間がなかなか…ね」
reverseのgreenをだしながら話ごとひっくりかえす。 えーいきなり返さないでよー!って、だったら、話ふらないでよ。
『こんな風に贅沢な女の子につかまっちゃだめよー』って笑う綺麗なオトナの塊。そんなこと、心配しなくても大丈夫。こっちはもうとっくに身持ちも性格も硬くて、ちょっとエロい誰かにとっくにつかまっちゃってるんだから。 誰かなんて言えないけど…。 カラフルなカードをみているうちにあの顔がダブってくる。 あのとき… ちょっと憮然とした、だけどいっぱいいっぱい照れた顔が思い出された。
・・・・・・・・・・・・ 最上級生になって、最初の部活の日。
新一年生が山のように部室の中を右往左往していた。 どこで、どのタイミングで着替えていいのか判らず、部屋の隅に溜まって、もそもそしている。 3年目。 これでやっと誰に気兼ねもすることなく、ラケット振っちゃえ! と思っているだろう、たくさんのメンバーの中に当然のように僕もいた。 新しく部長になった手塚は、大石と一緒に部屋の奥に据えられた専用のミーティングデスクで部誌を書いてる。
「おーいしぃ、まだぁ?」
ガタガタいわせて椅子をひきづってくると、とっくに着替え終わっていた英二はどかっとデスクに肘をついた。
「悪いな、英二。後10分」
「えーびみょーな時間」
まあまあとパートナーに宥められ、ぶすぶす言いながら英二は、カバンの中からちょっと角の刷れた黒いboxを取り出した。 ブラックに赤・青・緑・黄色。カラフルなUNOカードを取り出して僕を手招く。
「しよ」 「えー2人でやっても楽しくないんじゃない?」 「いいじゃん」
ばらっと英二がカードをデスクに散らばすと、不意に手塚が手を止めた。 やたら難しい顔でUNOをみつめて、黙ったまま。 ちょっと五月蝿いぞ英二、って言われるかと思い、覚悟してみる。 すると、手塚はただじいっと広げられたカードをみていた。 そして、何かを確認したそうように、僕をみあげて、こういった。
「なんだ、それ」
は? 当然ながら、部室内全域に渡って奇妙な沈黙が流れた。
「UNO」
当たり前のように、英二がカードの面指差す。 すると、手塚はまったくもって真面目な手塚部長らしい顔のまま、こういった。
「…資生堂?」
しぃぃぃぃ〜ん、とした。 ああ、どうよ。英二がフリーズ中だよ。ほらほら。 まさか冗談? って思っても、そりゃ手塚の顔みれば「違う。マジマジ」って判る。 手塚…。君って…君ってホントに…
「それはウーノ。綴りは同じだけどこっちはUNO」
そう僕が教えると、顔いっぱいに広がる ??????? の手塚に、もうもう僕は堪らず噴出してしまった。 同時に、部室中が意外な完璧部長の素顔にどっと沸く。 取り残されて、手塚はわからないまま、きょとんとしていた。
「な、なんだ、みんな知ってるのか??」
訳判らないまま、ちょっと恥ずかしいことだけはわかったらしい彼の、肩をぽんぽんと英二が叩く。
「テニスばっかしてるから、こんなになるんだよ。手塚。今度みっちり教えちゃるから覚悟しようねん」 「はい」
素直に手塚が頷くと、英二は満足げに頷いた。
・・・・・・・・
あのとき。
次の日は久しぶりにの部活も休みで、4人連れ立って僕の家に来たんだ。 やってしまえば手塚だもん。あっという間に一番強くなっちゃって、英二に可愛くないって文句言われてたけど…。 楽しい、そりゃ滅多にないcolorfulな思い出ですよ。ねえ?手塚。
最後の1枚を手に、僕は真っ青なカードを山の上に捨てた。
「UNO」
さ、時間だ。
end.
|