a short piece

2004年08月06日(金) ハッピータイム【28】

週末のお部屋。うっさい弟のビデオの音に混じって、携帯が鳴ってる。
どこでなってんのか、えらいちっちゃい音。あっと気がついて慌ててカバンの中に手を突っ込んだ。
ディスプレイには「比呂士」。めっずらしいこともあるもんだ。

「珍しいの。どした?」

仁王君、今平気ですか?

「だいじょーぶ、珍しいなぁ。なんかあったん?」

ちょっとですね、お願いがあるんです。確か貴方、昨日のウィンブルドン録画したって言ってましたよね?

そりゃもう当たり前だけどやっぱりテニスのことかい。

「しとるよ。準々決勝だろ?」

そうです。まだ消してなかったら貸して頂きたいんですが…。

「そりゃいいけど…ビデオだぞ。確かお前んちDVDじゃなかった?」

ああ、それは大丈夫です。VHS搭載型ですから。ありがたい。間違って消してしまいまして…

柳生はわりかしコマめに試合を編集する達だ。きっと今年の全英も全部コレクションしてたんだろう。

「あの選手、少しお前に似てたなぁ」

エ?逆じゃないですか?私は貴方に似てると思いましたよ。

「ほぇ?そうかの」

弟の頭を軽く蹴ってテレビのボリュームを下げさせると、床に転がった。滅多にない柳生からの電話。

「私はあんなに気が荒くないです」

言ってくれる。
それから、しばし頭の中に残る、その試合についてひと盛り上がりしていた。ちょっと耳に付く液晶があっちぃかね?と思ったら…
突然。

「あ、30分たちました。じゃ仁王くん、また来週!」

ッテ、勝手さっさと自分だけ締めてプツッって!
こらぁ!比呂士!ぶっつりいきなり切るか、お前ふつー!!

「週末のVフォンなんて嫌いじゃ…」

ああ、ハッピータイム。
せめて45分くらいくれや、と床に携帯をぶん投げてしまう。

そんな週末開始の夜。

こんなんアリですか?
ちぇ。



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