「ああ!」キツネが言った。「……ぼく、泣きそうだ」 「きみのせいでしょ」王子さまは言った。「ぼくはきみに、いやな思いなんか少しもさせたくなかった。でもきみが、なつかせてって言ったから……」 「そりゃそうだよ」キツネは言った。 「でも、泣くんでしょ!」 「そりゃそうだよ」 「じゃあ、いいことなんてなかったじゃない!」 「あったよ」とキツネ。「麦畑の色だ」
「きみたちは美しい。でも外見だけで、中身は空っぽだね」 王子さまは、さらに言った。 「きみたちのためには死ねない。もちろんぼくのバラだって、通りすがりの人が見れば、きみたちと同じだと思うだろう。でもあのバラだけ、彼女だけが、きみたちぜんぶよりもたいせつだ。ぼくが水をやったのは、あのバラだもの。ガラスのおおいをかけてやったのも、あのバラだもの。ついたてで守ってやったのも、毛虫を(蝶々になるのを待つために二、三匹残した以外)やっつけてやったのも。文句を言ったり自慢したり、ときどきは黙り込んだりするのにまで、耳を傾けてやったのも。だって彼女は、ぼくのバラだもの」
「さようなら」キツネが言った。「じゃあ秘密を教えるよ。とても簡単なことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」
「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ」
「人間たちは、こういう真理を忘れてしまった」キツネは言った。「でも、きみは忘れちゃいけない。きみは、なつかせたもの、絆を結んだものには、永遠に責任をもつんだ。きみは、きみのバラに、責任がある……」
(『星の王子さま』 サン=テグジュペリ 河野万里子訳)
昔から童話が好きです。今もずっと好きです。
最近マジな話が続いたので、中和事項。
我が青春の
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