毎日新聞のウェブ版に連載されているエッセイで、ちょっと前から何となく読み続けているシリーズがあります。
「女という名の病」:小倉千加子
これは同紙「こころ」欄に入っている心理学者の方の著作で、ひとりの女性の心理をずっと丁寧に追い続けているものです。これが何というか……読んでいただければお分かりかと思いますが、すごく、微妙です。
とりあえず、この題材となっている女性、ナイトメアさんですか、この人に対する作者の視線は明らかに新聞という場に代表される「報道」のものではないし、ルポルタージュとも違う、論文となるともっと的外れです。では何かというと文芸、それも私小説とか純文学とかの、真の意味での文学に近いものではないでしょうか。
でその結果どうなってるかというと……すんげえ浮世離れっぷりです。突っ込む人がいないか、全員突込みを諦めた後だとしか思えません。
例えば第一回から引用します。
「だから講義には出られないのだが、気にかけてくれる教授はいるという。それでも、その教授と話すと必ず論争になって、「君の考えは間違っている」と教授は怒りだすという。論争の中身を聞くと、教授は、教授の知らない知識をナイトメアが知っていることで怒りを感じているらしいことが、なんとなく分かった。優秀すぎる弟子は、煙たいものである。」
確かにそういう心理も働いてるかもしれません。しかしこの教授が怒りだした本当の理由はそっちじゃないでしょう。このナイトメアさん、だいぶまずいことになっている精神状態の方で、人との食事の最中に「いきなり頭を下げて、眠ってしま」ったり、一緒に芝居を見に行くと細かい違いが気になって、隣にいる人が台詞を聞き取れないほど喋りだしてしまったりする御仁です。そういう学生を気にかけてくれて、ちゃんと相手をつとめている。これはかなり教育者としての自覚のある、真面目な教授ではないでしょうか。もっとはっきり言うと、いわゆる一般的な意味での「いい人」なんであろうと思われます。
「いい人」は普通、真面目に人の話を聞きます。そういう真っ直ぐな状態の人に、さっぱりコミュニケーションの基礎がなってない人が正面から議論をふっかけたらどうなるでしょうか。衝突しない方がおかしいんではないでしょうか。
要はこの微妙さ加減……いや、ま、検索した限り真剣に読んでる人のほうが多いようですし、仮にも新聞連載コラムなんだからそう、積極的におかしいということもないんですが……は、この小倉先生の、何とも言いがたい世界観から来る部分が大きいのです。もやつき加減も非常ーーーーに微妙なので、ただ黙って読むだけに留めていたんですが、最新の部分などを読みますと……。
「 それは、「専業主婦」であるには多分余りに優秀な頭脳の持ち主である母親が、生きられなかった人生を生き直し、なおかつ「専業主婦」であることを否定しない人生である。」
……。 ………何もわざわざ特定職種の人に喧嘩売らんでも。
幸いと言いますかなんと言いますか、最初に申し上げたようにこのコラムは文学っぽいです。より正確には、内省的で自己完結していらっしゃいます。だからある意味、無害ではあります……別にもやもやしても、見なかったことにすればいいだけなんで……。
あのでも、さっきから一生懸命考えているんですが、このコラム、何を目的にしてるんでしょうね。それが一番の謎です。読み物としてある意味面白かったことは、認めますが。
拍手レス りるるさん>わざわざありがとうございました〜〜(TT) ひっそりと川に小石を投げながら一人で一万ヒットを祝っておりました。誰もついてこなさそうな道を一人で爆走して参りますので、これからも応援よろしくお願いします!
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