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ムシトリ日記
加藤夏来
→ご意見・ご指摘等は

2005年07月27日(水)
ギリシャ悲劇、勉強中

さ、にわか勉強の続きです。(読んでる人の存在は放りっぱなしです!)今更ながら俎上に上げている作品をご紹介しますと、題名「オイディプス王」、ギリシャ悲劇の名作中の名作だそうです。この高評価はよっぽど磐石のものであるらしく、当のテキストならびに全集の解説、入門書にまで「最高のものであるしるしとして”王”の一文字をつける」との但し書きがありました。かっこいいですね。

けっこう有名なエピソードなので言わずもがなな説明になりますが、オイディプスの伝説というのはギリシャ神話に有名な話で、運命のいたずらから実の父を殺し、母と姦通してしまう王の悲劇の物語になっています。エディプス・コンプレックスという心理学用語まで存在するくらいで、この戯曲も筋自体は意外でも何でもありません。ここのところの条件は上演当時(2500年前だ)にも全く変わらなかったようです。

伝説について一応書いておくと、この話の発端は主人公であるオイディプスの出生当時にまで遡ります。この人の父上が「息子が生まれると、お前はいずれその子に殺される」という予言を受けたために、オイディプスは生まれると同時に山に捨てられ、しかし仏心を起こした従者に他国人に渡されて立派に成人します。で、また余計なことに、その後で別の予言として「いつの日がお前は父親を殺し、母親を犯すことになる」と聞かされてびっくりし、その国を逃げ出します。予想はつかれるでしょうが、逃げた方向は元の自分の国です。そして、その道の途中で神託を聞くために旅に出た実の父に出会って、しょうもない争いの末に従者ごとこの人を殺してしまいます。

紆余曲折を省略しますと、オイディプスは結局自分の国の王になって元の王の妃、つまり実の母と結婚してしまい、かくて予言は成就してしまうわけです。劇は、このオイディプスが王になって十年も過ぎた後のことで、彼がことの真相を全て知ってしまうまでの経緯を描いています。こないだ見た映画から無意味に引用すると「この事件はもうとっくに終わっている。拝み屋を呼べ!」ということになるでしょうか。普通に、筋立てのセンスがよろしいです。


………で終わっちゃあいけないんだってことを、ついこないだ学習したところです。


とは申せ、実は読んでいる最中に「ん?」と思うことが少しあったもので、まずそこから入らせてもらいます。つまり、一人地味だけど決定的におかしい言動の人物がいるんですね。まず、先王に「子供を捨てて来い」と言われ、結局はその子を生かしてしまった従者。そして、オイディプスが先王一行を殺してしまった際に、一人だけ生き残って帰ってきて、何故か「賊は複数いた」と証言した従者。そして、結局最後の決定的な証言「あなたがあの時の他国に渡した子供なら、あなたこそが先王および王妃の子供です」を行った羊飼い。これらは全て同一人物ですが、この人はほとんどストーリー上の矛盾を一手に背負い込んでいます。

まず、くだんの「賊は複数……」証言。当然ながらオイディプスは一人です。そして、ここで従者のした証言と数が食い違っていたために、ストーリーの前半で彼は「それは自分じゃないはずだ」と思って安心しようとしています。何故かこの数の食い違い問題、途中からすっかり忘れ去られて影も形も出てきません。(問題が出てきてから追求が終わるまでのページを十回くらい読み返しましたが、やっぱり書いてありません。あまりに堂々と欠落しているので、お約束で見ないことにするのかと思っちゃった)

この問題については安心もくそも、「例えその人が父親でなかったにせよ、お前そこらへんで四人も人殺して堂々と王様になっとるんかい」という別の問題が発生するのですが、告白を聞かされた他の人も特に気にしてないようなので見なかったことにします。

で、致命的な証言を行った後も、この従者の奇行は続きます。王様が殺された後の混乱した国にさらにもっと問題が起こり、そのせいで王様の殺害問題はすっかり棚上げにされ、オイディプスが王になってやっと国が落ち着いた後で、従者は「引退させてくれ」とお妃様に泣きつきます。彼の今までの業績に比べれば、不思議なほどに軽い望みだそうです。

ここで注意。彼は事件についての証言を行った唯一の目撃者であるわけですが、ということはこの人、オイディプスの顔をばっちり見てるわけです。また、当然ながら玉座の新しい主人となったオイディプスのことも、宮殿の使用人なんだから見ないわけもないです。

……普通「あ、あいつは……!」となりませんか。何故に宮殿どころか国からさえほとんど出て行くという選択肢になったんでしょう。

この人がよほど軽い扱いで、王様の顔を見られるような立場になかったとしましょう。ですが、ストーリーの後半で従者と王様は思いっきり対面しています。この場合は「お前はあの時の!」となるでしょう。でもこの場面で従者が問題にしているのは、その昔先王に託された子供の話です。動揺した様子はありません……。

ここまで来るとこの矛盾を解決する方法はただ一つ。この従者は事件当初、最初っから最後まで何も見ちゃいなかったと考えるしかありません。車の荷物入れにでも隠れてひたすら震えていたんでしょうか。だから「賊は複数」というのもテキトーな証言、オイディプスの顔も見ておらず、そもそもだからこそ一人だけ生き残れたと考えるのが妥当です。……それでも最初一人で近づいてきたはずのオイディプスを少しも、まったく見ていないというのは腑に落ちないんですが……。

続きます。


拍手レス

>「ちい」にコメントくださった方
諸事情により棚上げになってしまい、申し訳ありません(汗 ゆったり行くと思いますので、気長に見守っていただけると…。

>団地妻さん
いえいえ、お節介失礼致しました(。。; 色々お忙しいとは思いますが、ハァハァしつつ待っておりますので頑張ってください! お宅の兄はすっごい天然サオ師だと尊敬しております。いや、真面目に。