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ムシトリ日記
加藤夏来
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2004年11月22日(月)
女を惑わすためだけに*「ハウルの動く城」ネタバレ

軽い前説として、サンケイ新聞の当該記事を貼っときます。

「ハウルの動く城」動員記録

2日の動員が110人って、そりゃ高校の文化祭の自主制作レベルじゃないんでしょうか。



それは置いといて、封切りに見てきました。一応ネタバレ避け地を作ります。

























で、見終わっての第一印象です。

宮崎駿という人が、同時代の日本において最大にして最高の映画監督であるということは、30〜40代以下の世代においては既定の事実であると思われます。生きている間に伝説となるというのはこういうことなんだと、我々の大半は自分の目で見ていますから。

で。

そういう人が女の子をよろめかせるためだけに心血を注ぎ込むとどういうものができるか、という実験のようなものがハウルだったと思ってください。
女の子、特に十代以下の女の子。その年代の女の子でアレに惑わされない子がいたら、遺伝子に何か変なものが交じってるってくらいの勢いです。ヒロインもまあ可愛いけど、ヒーローの色気に最重点を置いて絵コンテ切るってどうなんですか。いくらなんでもいかがわしくありませんか。

ハウルの体型とか装飾品とか、ちょっとやりすぎてて不気味なくらいのバランスになってるんですが、これに「現在までの人生の半分以上を女を惑わすためだけに費やした男」の声がかぶると、かなり見事です。ハウル・オン・ステージ、タイトルに偽りなし。


ハウル以外の部分に話を移すと、いや、充分楽しい映画だったと思います。様々な場面場面の面白さで畳み掛けてくれるので、退屈する暇はありませんでした。ただ、そうした小状況に比べて、大状況(戦争とか魔法使い同士の関係性とか)がぼやけた印象になる感じは否めません。ハウルはあちらこちらに出張していますが、どうもそっちは脇っぽくて、城の台所で進行しているストーリーがメインのようです。


もっとも、これについては某所で「この物語自体が、象徴化されたソフィーとハウルの心の葛藤の物語である」という解釈を聞いて、ちょっと得心がいきました。見掛け倒しで地に足がついておらず、中は未整理のがらくたと金ぴかのおもちゃでいっぱいの動く城は、ハウルの心そのもの。一方、実態は18歳の少女であっても、親の価値観である帽子屋を後生大事に守り続け、未来への展望が開けないソフィーの心は、実は90歳のおばあちゃんのようなもの。ともに不完全な部分を抱えた二人の心が出会い、ハウルの心(城)がソフィーを受け入れ、ソフィーがハウルのために何かしたいと思ったとき、双方の呪いは解け、共に歩み始めるという。


そういう解釈に従えば、これは非常に原点に忠実な、質のいい童話だったと思います。童話に必要なのはテーマやメッセージではありません。すると、もっと思い切りよく「戦争」を戯画化してもよかったような気もしますが、それだとちょっと芸術的になりすぎます。正面切って非難するほどでもないのでは。


冒頭に上げたような意味ではなく、観客動員数がえらいことになっているらしいので、今すぐ見に行くのはお勧めしませんが、それなりに外出の価値はあると思います。レジャーかたがた、大勢でどうぞ。