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ムシトリ日記
加藤夏来
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2004年09月16日(木)
なまけもののアリ

コンピューター上のシュミレーションの例で、「怠けもののアリ」という話を聞いたことがあります。組織マネージメントの実験として行われたのだそうですが、うろ覚えではあるものの、概要は以下のようなものでした。

「えさを集めるアリ」という行動様式をもったプログラムを用意し、何百匹かの集団を設定します。もちろん、フィールドも設定して、AIであるそれぞれのアリを自由に行動させるのです。
実験内容は、アリの働きぶりに差をつけることでした。「目的に向かってまっすぐに行動し、勤勉にえさを集め続ける有能なアリ」と、「自分の好き勝手に行動して、関係無い方向に行っちゃったりする怠けもののアリ」の二種類を設定したのです。

二つのアリ集団のうち、一つを有能なアリのみからなるグループとし、もう一方を一割だったか二割だったかの怠けもののアリを含むグループとした状態で、それぞれのえさの集まり具合が観察されました。
わざわざ書いているくらいだからお分かりでしょうが、結局のところ、成功した集団=えさをたくさん集めた集団は、お荷物であるはずの怠けもののアリを抱えたグループだったのです。

これの理由は、好き勝手な方向をうろつく怠けもののアリたちが、普通なら見向きもされないルートを踏査する形になり、見つかりにくい場所にあるえさが発見されたことにあります。結局のところ、見つかったえさを運ぶのは有能なアリたちだったりするのですが、無駄のないルートばかり通る有能なアリ集団は、せっかくの有能さを発揮する機会が足りなかったとか。

あくまでシュミレーションですが、現実の人間の集団に適用するとなると、まことに意味深いものになります。何かの人間の集まり、企業とか、もっと広範に社会全体として見てもそうですが、最後に実績をあげることができるのは、異分子を排除しない寛容性をもった集団ではないでしょうか。

こんなような見方もできます。例えば、何かのプロジェクトを進めるにおいてミスばっかりする人。これは単に処理能力が劣っているというだけのことであったとしても、さっきのアリに例えれば「誰も行かない道」にあたるわけです。プロジェクトを行う人が100人中100人有能であればよし、そうでなければ「ここでこうするとつまづくことになる」という予防策を見出したに等しいでしょう。もしかしたら、そのミスは取り返しのつかないタイミングで初めて引き起こされたかもしれないのです。

状況は色々です。どのような場においても、異分子である人は風当たりが強いものです。ですが、すべからく、マイノリティーというものはこのような「なまけもののアリ」であると、私は見ます。この種類のアリの使命は、実は自分たちは社会にとって必要な存在であることを忘れないこと、それから、自分が見たものを他のアリにきっちり伝えることではないでしょうか。