ひとりごと
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蛍見夕涼み 2004年06月20日(日)

今日はとても蒸し暑かった。
…ので、ホタルを見に行くことにした。
ホタルは蒸し暑い夜が好きなのだそうだ。
いつもの里山まで、夫と自転車を走らせた。

明日が夏至。
7時でもまだとても明るい。
自転車を林の脇に止めて、散歩をしながら日が暮れるのを待った。

山道ではオカトラノオの群生に出会った。
青い黄昏の中に浮かび上がった白い花穂の群れがきれいだった。
田んぼの中を覗くとアメンボやおたまじゃくしが小さな波紋を作っていた。
苗の間の水が夕焼け色に染まってきた。
カエルたちの声が大きくなってきた。
カモがねぐらに帰っていった。
夜がやって来る。

人の数が増えてきた。
顔も見えないような夕闇の中に
ホタルを待つ人々の楽しそうな声が柔らかくとけていく。
子どもたちの声がはしゃいでいる。
私も少しドキドキする。
ホタルはもう光る準備をしているかしら?

いつもそのあたりにホタルがいる山と水田の間を見つめた。
光った!と思うと白い花が風で揺れたのだった。
あ、あそこに!と田んぼの中を指差してよく見ると
それは水に映った空の星なのだった。
見上げると、くるくると流れる雲の間にいくつも星が光っていた。
子猫の爪みたいに細いきれいな月も山の端にかかっていた。
さらりとした風が吹いた。
なんて気持ちいい夕涼み。

ざわざわと木の葉が鳴った。
誰もが息を呑んで、ホタルの最初の光を待っている。
闇の中に目を凝らす。
それでも、なかなか現れてくれないのだった。
光ったように思えるのは、やっぱり「気のせい」だった。

じりじりと待ちながら、それでも、
今日はこのままでもいい、と思い始めていた。
だってこんなに気持ちのいい夕風。
ほっそりと光る美しい月。
水田に映る星々。
目をつぶって深呼吸すると土と緑の香り。
人々の穏やかな声。
夕涼みを楽しみに来たと思えばいいじゃない?

あきらめた夫が「もう帰ろうか」と言うのを、
ぼんやり草むらを見つめながら待っていた。
夫のほうが気が短い。
でも、聞こえた声は「いた!ホタル!」だった。
あわてて指差す方に目を向けた。

たしかに今までの「気のせい」ではない。
しっかりと息づいた、紛れもなく生きものの放つ、
雅な光の点滅が草の陰にあるのだった。
あちこちで、人々の声が上がり、そちらを指差していた。
たったひとつの光をみんなが見つめていた。
やがて、あちらにも、こちらにも、かすかな光は増えていった。

里山はすっかり夜に包まれた。
ほんの数個の光の明滅を見つけて幸せになった人々が帰り始めた。
私たちも満足。
今年もホタルに会えて胸がいっぱい。
でも、おなかはぺこぺこ。
横でホタルを見つめていた夫も、満足のため息をついたあと
「おなかすいたから帰ろうか」と言った。

少しだけれどホタルに会えて、気持ちのいい夕涼みができた。
ほどよくすいたおなかを抱えて、また自転車をこいで山を越えた。
このちょっとのサイクリングが、いっそうビールと夕食をおいしくしてくれるだろう。
毎年夏の恒例、蛍見の後は釜飯屋さんだ。
ほら、あのログハウス風のお店の光がどんどん近づいてきた。


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