indexbacknext

----------2005年10月29日(土) 175-181

175 その言葉にトゲが生えはじめたのは確か2年くらい前の夏のことだったと思うのですが詳しくは分かりません。最初はごくごく小さなトゲで、口の中にあるときも少しチクチクするくらいだったのですが、あるとき大の男がその言葉のトゲにあたって泣きはじめたので、言葉のしっぽをつかまえてトゲの大きさを確かめました。それは3ミリくらいに成長していました。

176 言葉に生えたトゲは日に日に大きくなっていくようでした。口の中に入れておくのが痛くて、誰もいないときにそっと暗がりに吐き出すようになりました。誰かがそのトゲを踏んでケガをした、という話も聞いたことがあります。トゲの生えた言葉はどこにいっても歓迎されないのでなるべく隠すように心がけていたのですが、こんなになってしまってはもうとても無理です。

177 これではまるでキバのようではないですか!!

178 相手が非を認めるまで、これでもかと攻め立てて追い立てて、あげくに受話器から受話器へと飛び移って喉元にかぶりつくのですよ!!

179 ああ、もう、こんな言葉は捨ててしまわなければなりません。箱に詰めて、紐でぐるぐるに縛って、ぽーいと海へ放り投げてしまわなければ。何をしでかすか分かったもんじゃありませんよ。なにせもう、すっかりコントロール不能なんですから。

180 トゲ抜き師のところへはもうとっくに行きました。けれども彼はふむふむと話を聞くだけ聞いてこれを飲めば治ると言って適当な薬を渡してくれただけだったんです。は! 馬鹿馬鹿しい! ぺてんもいいところですよ!

181 もうとにかくこんな言葉なんていりません。口を噤んでいてもいつの間にやら唇のはじっこからにょきっと出てこようとするものですから顔の相まで変わってしまいました。ええ、そうです、この皺は言葉のキバのせいなんです!!