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----------2005年02月12日(土) 空ニ返レ

「すべての象徴はひとつの経験である。それは生きねばならぬ根本的な変化であり、やりとげなければならぬ飛躍である。だから象徴があるのではなく、象徴的な経験があるのだ。」(モーリス・ブランショ「来るべき書物」/筑摩書房)

私は紙コップを捨てにホールを出ただけだ。

誰も私についてこなくていい、私は皆を置き去りにして背筋を伸ばして歩いていく、私の身体は今これ以上ないというくらい軽い、そうして私は正しい歩き方を知っている、膝を伸ばし、顎をあげて、灰色の目に灰色の景色を映しながらただまっすぐ前だけを見て歩いていく、もう誰も、ほんとうにもう誰も私についてこなくていい、インテリ気取りの高慢ちきな女だって? かまわない、所詮痩せこけた傷だらけの負け犬だって? まったくかまわない、その通りだ、私には何もない、何もなくていい、何もかも邪魔なだけだ、

甘くて暖かくて酸っぱくてこそばゆくて、どこにもなかったからこそなによりもきれいだったすべての想いを今夜空に返す。

飛んでいけ、どこまでも。

もう、戻ってこなくていい、もう、二度と、戻ってこなくていい。