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----------2005年02月06日(日) 蒼ざめた午後

「子供の頃、わたしは太陽を凝視したことがある。太陽はわたしの目をくらまし、光の輝きでわたしを灼いた。子供の頃、わたしは愛を、母親の愛撫を知っていた。わたしは無邪気に人びとを愛し、喜びにみちて生活を愛していた。いま、わたしは誰をも愛していない。愛したいとも思わないし、また愛することもできない。世界は呪うべきものとなり、いちどきに、わたしにとって荒涼たる砂漠と化した。すべては虚偽であり、すべては空の空である。」(ロープシン「蒼ざめた馬」/岩波同時代ライブラリー)

「いつのことだか思い出してごらん あんなこと こんなことあったでしょう」と幼児がテレビの向こうで歌う。たしか幼稚園の頃、私も歌っていた。母はその頃の私が「可愛らしかった」といって目を細める。ハイジみたいにほっぺたが赤くて髪はくせっ毛でくりくりで頭がよくて。

私の頬はいつの間にか蒼白くこけ、くせっ毛はストレートパーマで取り去られて、飴色に染まっている。頭がいい、は小賢しい、気難しい、に置き換えられ、私が部屋で本を読んでいる間、母はまるで腫れ物にでも触るかのようにイヤホンを突っ込んでテレビを見ている。

とてつもなく静かで、蒼ざめた、日曜の午後。

多分行くべきところはあった、するべきこともあった。けれど内側でこだまする声はすべてに「虚しい」と判定を下した。

太陽とはぐれて久しい。