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----------2005年01月29日(土) 今夜も逃げられた
「いつかは彼女も誰かにたいして無気味な神になれるときがくるのだろうか? ともかくそれだけはまだ訪れたためしはない、だってひたすら服従することに、或いは崇めることにかかりきってきたように思われるからだ。」(A・ピエール・ド・マンディアルグ「オートバイ」/白水社Uブックス)
それは私がとろくさいからだ、「昨日」が降り積もった足元の沼地、発酵して胸をむかつかせる沼地を蹴って、一気に駆け抜けるだけのスピードを持っていないからだ。取り憑いてくる、それは足元からじわりじわりと腰へ、胸へと迫ってくる、そうして私を動けなくする、
最もスピードを感じていられる瞬間、それはこの文章を書いているとき、手の赴くままにキーボードを自在に操っているとき、他人の書いた粗雑な筆跡を読み取るのではなく、私の頭の中だけにあるまだ現前していないイメージを追いかけているとき、それは逃げていく、いつも私の目の前をすり抜けていく、けれどいつかきっと捕まえてみせる、そいつの尻尾を捕まえてそうして皮を剥いでやる、一瞬たりとも手を止めてはならない、また逃げられる、また遠ざかる、だから全身の神経を指先に集中させて・・・
今夜も結局逃げられる。
ただ、私がこのキーボードを叩く、という行為を偏愛していることだけは確かだ。ただその瞬間だけ、世界は私の手の中にある。私が世界を操っている、そんな錯覚を覚えるから。だってそうでしょ、私がこれを「叩かなければ」あなたは生涯これを目にすることなどなかったはずなのだもの。
だけど今夜もやっぱり逃げられた、だって本当は、こんなことじゃなくて、生理がきそうでこなくて苛々するから誰かとっとと私の子宮口を突き上げてよ、そのためだったらタクシーにでも新幹線にでも夜行列車にでも飛び乗ってあなたのもとに駆けつけるから、ってなことを書こうと思っていたんだもの。
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