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----------2005年01月11日(火) 砂の本は何処へ

「一枚の葉をかくすに最上の場所は森であると、どこかで読んだのを、わたしは思いだした。退職するまえ、わたしはメキシコ通りの国立図書館に勤めていて、そこには九十万冊の本があった。玄関ホールの右手に、螺旋階段が地下に通じていて、地下には、定期刊行物と地図があった。館員の不注意につけこんで、「砂の本」を、湿った棚のひとつに隠した。戸口からどれだけの高さで、どれだけの距離か、わたしは注意しないように努めた。」(ホルヘ・ルイス・ボルヘス「砂の本」/集英社文庫)

帰りに立ち寄った書店で迷子になった。ジュンク堂でも紀伊国屋でもなく、地下街の小さな丸善で。よく分からない本、どうやって読めばいいのか、どうやって読み始めればいいのか分からない本が周りを取り囲んでいて、途方に暮れたのだ。平積みになっているもの、棚に詰め込まれているもの、数冊手にとってぱらぱらと頁をめくってみたけれど、私はそれをどうすればいいのか一向に分からなかった。だから何も買わずにその書店を後にした。

私は「砂の本」をいったい何処に置き忘れてきたのだろう。まさか書店で自分を見失う日がやってくるとは夢にも思っていなかった。