チフネの日記
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2012年10月17日(水) 諦めない話  跡リョ

U-17の合宿招待の手紙を持って、リョーマは皆の前に現われた。

来るなら来ると連絡をしてくれれば良かっただろうと文句の一つも言いたいのだが、
跡部はそれをぐっと飲み込んだ。
会えたことが素直に嬉しいからだ。

「驚いた?」と尋ねるリョーマに、「ああ、驚いたぜ」と言って抱き締めた。
何してんのとリョーマは抗議の言葉を口にしたが、すぐに大人しくなった。
お互い数ヶ月の空白を埋めるスキンシップが必要なのはわかっているからだろう。

しかしその後リョーマが二人一組の対戦をすっぽかし、すぐに離れ離れになるとは思わなかった。
こんなことなら一日中見張っておくべきだったと後悔する。単独行動させるべきではない。
自分がコートに出ている時は樺地に任せて、それ以外はずっと手を繋いでおく。
どうしてそうしなかったと、跡部は頭を抱えたが全て後の祭りだった。

その後、負け組は黒いジャージに身を包んで帰還する。
リョーマの顔を見た時は、ほっとした。
これでまたリョーマと一緒にいられる。
どの位の時間が用意されているかはわからない。
だけど一秒でも長く居たいと思う。
合宿が終われば……、また離れ離れになうのはわかっているけど。








「何やってんだ、全く。連絡の一つくらいしやがれ」
「それどころじゃなかったんだって。自由時間なんて無いし、睡眠時間だって5時間もなかった!」
「……お前にとっては大問題だな」
「本当だよ!」

ふくれるリョーマに、まあ、そうだろうなと跡部は思った。
一度負けて(リョーマのはただの不戦敗だが)這い上がろうとするなら、息抜きする時間すら無かったに違いない。
わかっているが、割り切れない。
文句くらい言わせろと言うと、「もう、いいじゃん。戻って来たんだから」とリョーマは悪びれることなくそう言った。

「それよりあんたは少しは強くなったの?」
「誰に向かって言っているんだ。俺様の成長を見たら驚くぞ。
惚れ直して、皆の前でキスしたくなるかもしれねえな」
「次の試合っていつやるんだろ。俺、高校生とやりたいんだよね」
「おい、聞けよ」
「え?何か言った?」

こんなやり取りも久し振りだった。
いつもリョーマは跡部の言うことをスルーして、好きなように振舞っている。
ついこの間のことなのに、何故か懐かしく感じる。

「なんか、悪くねえな。こんな時間がもてるっていうのも」

今、部屋には誰もいない。
リョーマと相部屋になれなかったが、負け組が帰還したことで皆今日だけはお祭り状態で騒いでいる為、こっそり自室に連れて来たというわけだ。
鍵を締めたから、すぐに誰かが入っては来れない。
キスくらいはいいよな、と考えていることをリョーマは知らないだろう。

「でも明日からまた忙しくなるんじゃない。話が出来るのも、今だけだったりして」
「おい……。嫌なこと言うなよ」
「現実の話として言ってるだけっすよ」

ちょっと困ったようにリョーマは笑った。

「だって選抜メンバーに入れる人数って限られているんでしょ。
もしどっちかが入れなかったら、顔を合わせることもなくなる」
「だから入れるように頑張るしかないだろ。そうしたら一緒に居られる」

何言っているんだと、リョーマの手を握る。
だけど視線を逸らしたまま、跡部の方を見ようとしない。

「越前?」
「居られる、って言っても合宿の間だけだよ」
「……」
「終わったら、また俺はアメリカに戻る。
それこそ会話なんて出来ない」

離れていたのはたった数ヶ月。
送り出すときは平気だなんて言っていたけど、
この期間にリョーマも色々なことを考えていたかもしれない。

俯いたまま、リョーマは言う。

「ねえ。もし、あんたが嫌になったのなら」
「俺の所為にしようとするな」

鋭くそう告げると、リョーマはこちらの気持ちを察したらしく、口を閉じた。

「もし、とかくだらないこと言うな。
それよりどうやったら勝ち残るか、それだけ考えろ。
俺も必ず勝ってみせる。
まだ離れることを心配するような場合じゃないだろ」

跡部の言葉にリョーマは「そうかもしれないっすね」と、
やっとこっちを見て頷いてくれた。

握った手は少し汗ばんでいて、だから跡部は強く力を込めた。
そうするとリョーマも同じだけ応えてくれて、なんだかほっとする。


(俺は諦めたりしない。
別れたくなったのなら、自分から切り出すんだな。
それまで離してやらねえよ。絶対に)

リョーマがそうしたいというのなら、受け入れることを考えなければいけないが、
中途半端な言葉で、しかも跡部の負担を気遣っているだけなら、別れを認めるわけにはいかない。


どうせ駄目になるなら、二人共疲れ果てて、二度と会いたくなる位にまで傷つけ合う方がずっといい。
自分の心がずたずたになるまで、諦めるつもりは無いのだから。

でもそんな日が来なければいい。先の未来も二人で居られたらそれでいい。

リョーマの手を握り、
同じことを考えてくれればいいのに、と思った。

終わり


チフネ